忍えもん! 2 * 「ほれ、これ持っていき」 忍足に押し付けられたものを受け取った鳳は、今度は心臓が爆発しそうになった。 手の中には2枚のチケットと小さな箱がある。 「ちょっ!!ななななんですかコレ!!」 「何て…今日の帰り、告白のチャンスやろ?そのための道具や。22世紀の道具や」 忍足はキザな微笑みを浮かべたが、鳳にすればまったく頼りがいの感じられない顔だ。 「道具って!これ、こっち、ど…道具ですけど!!」 「せやからとっととOKもろて『ラブホテルの宿泊券』使こて『ローター』で宍戸を満足させてやれ言うてるんやっ!」 「あんたいろいろと順番すっ飛ばし過ぎですよ!!」 鳳は先輩に対する態度もなにもかも忘れてそう叫んだ。しかし、怒りつつも、鳳はどこか赤い顔をしている。 中学生の鳳は、当然そのどちらも目にするのは初めてだったのだ。 「それに、どこが22世紀の道具なんですか!ていうか忍足先輩。うちに来て1週間ほど経ちますけど…あなた、本当に未来から来たんで」 「じゃかあしいわボケェェ!!男ならとっとと好きて言え!いつまでもいつまでも嫌われるビビって情けないったらありゃせんわこのヘタレが!今日こそ決めて来い!せやないと麗子さんのお手製コロッケ、お前の分食うで!!」 「…人の母親を名前で呼ばないで下さいよっ」 鳳はそれだけ言い返したが、後は何も言わずに部室へ戻るしかなかった。 突然やって来た未来人に言われる筋合いはないが、忍足の言ったことはすべて図星だ。宍戸に嫌われるのが怖くて何も言えずに今日まで来てしまったのだ。情けない以外の何者でもない。 * 鳳が部室へ戻ると、宍戸は身支度を整えてソファに座り、待っていた。 「長太郎。あ、忍足…は…?」 「先に帰りました。待たせてすみませんでした」 「いや、別に…。最近、長太郎と忍足って、仲良いよな…」 「えっ。い、いや、そんなことはないですよ…?」 忍足は一つ、未来人の本領を発揮していた。 鳳の家族を始め、学校やテニス部の面々に記憶操作を施しているのだ。そうして、鳳家や氷帝学園になんなく馴染み、今もこうして悠々自適な生活を送っている。 宍戸にも、忍足が以前から部活にいたように記憶操作されてはいるが、本当は一週間前に未来からやってきた忍足と鳳が急に親しくなったように見えてしまうのは仕方がない。 鳳は、忍足が自宅に居候していることもばれているのではと少しひやひやした。 「つーか、さっきの話なんだけど」 「あ…さ、さっきのは…」 さきほど、宍戸は自分の好きな人を知っていると言った――だが、どこまで知っているのだろう。もしすべて宍戸が知っていて、それでも普通に接してくれているのだとしたら…どうでもいいと思われている、ということだろうか。 鳳はぐるぐると頭を悩ませて、そのうち宍戸の目を見れずに俯いてしまった。 「ごめん、勝手なこと言って。俺、長太郎の好きな人なんて知らねぇのに」 「…え…?」 見ると、宍戸も気まずそうに床に視線を落としている。 「つーか、長太郎に好きな奴いるなんて、今日初めて知ったぜ。なんかびっくりしたし…忍足は知ってるのかと思うと、ちょっとムカついた」 ――ちょっとムカついた。 宍戸さんが、忍足先輩に苛立ちを感じた…? 前 次 Text | Top |