◇パラレル | ナノ



unknown 8



「……え、…これ、劣化激しいですけど……」

鳳の手の中には日に焼けて汚れも目立つ、相当古い時代のものであろう一枚のモノクロ写真。
以前、鳳が目にした現像されたばかりのものではない。
色褪せた写真の中にいても亮はあの魅力を失っていない。

「そりゃあそうだよ。何百年前に現像されたか出発前に調べただろ?」

カメラは過去に置いてきた。
そうすることであの写真は未来で綺麗に現像され、待っていてくれるから。

なのに、これは。


彼は未来を変えたのか。
鳳が抹消したはずの想いは。


一体どこで奇跡が生まれたのだろう。
亮が気まぐれに現像したのか。
記憶捏造の機械に不備があったのか、鳳にミスがあったのか。
たくさんの疑問が浮かんだが、それよりも。

どちらにせよ、これは。


「……歴史、改ざん……」


鳳は直立したまま、ぼそりと言葉を漏らした。

「何か立つ前と違うのか?」
「……はい……」

歴史を未来人の手で塗り替えてしまうのは大罪だ。
しかし、鳳も滝も慌てることはない。
滝は鳳を庇うように話しだした。

「まぁ、未来人が過去へ飛ぶことで多少の歴史は変わるものだろ。小さいことなら仕方ないさ。それはつまりなんの影響も無いってことだから」

滝は一呼吸置くと、鳳の胸に光るクロスのペンダントを小突いた。

「現に君は行動制限装置と一緒に過去へ飛んだ。歴史改ざんの罪に問われるようなことは、何一つ出来やしないよ」

滝は安心させるように笑いかけた。
様子のおかしい後輩を心配しているようだった。
けれど鳳はそれを取り繕うこともなく、そのまま部屋を後にした。




鳳は一人廊下に佇んだ。
見上げた狭い空には人工の太陽が燦々と降り注ぐ。
偽物の太陽とは似ても似つかないというのに、なぜか亮の笑顔が重なる。

「俺……彼のこと見つけられるかな」

出会うことなど無かったはずの、亮。
それでもこうして出会うことが出来た。
これが運命でなくとも、鳳にはすでに迷いなど無かった。

「いえ、探し出してみせます。俺も相当あなたに惚れてますから。亮さん」



写真の裏には擦り切れた文字が記してあった。
几帳面に並んだ右上がりの短文が愛しい。

いくら時間が経とうとも色褪せない、ただ一つの想い。
















すげー惚れた。

絶対、探し出してやるから待ってろよな。


宍戸 亮










End.





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