unknown 8 「……え、…これ、劣化激しいですけど……」 鳳の手の中には日に焼けて汚れも目立つ、相当古い時代のものであろう一枚のモノクロ写真。 以前、鳳が目にした現像されたばかりのものではない。 色褪せた写真の中にいても亮はあの魅力を失っていない。 「そりゃあそうだよ。何百年前に現像されたか出発前に調べただろ?」 カメラは過去に置いてきた。 そうすることであの写真は未来で綺麗に現像され、待っていてくれるから。 なのに、これは。 彼は未来を変えたのか。 鳳が抹消したはずの想いは。 一体どこで奇跡が生まれたのだろう。 亮が気まぐれに現像したのか。 記憶捏造の機械に不備があったのか、鳳にミスがあったのか。 たくさんの疑問が浮かんだが、それよりも。 どちらにせよ、これは。 「……歴史、改ざん……」 鳳は直立したまま、ぼそりと言葉を漏らした。 「何か立つ前と違うのか?」 「……はい……」 歴史を未来人の手で塗り替えてしまうのは大罪だ。 しかし、鳳も滝も慌てることはない。 滝は鳳を庇うように話しだした。 「まぁ、未来人が過去へ飛ぶことで多少の歴史は変わるものだろ。小さいことなら仕方ないさ。それはつまりなんの影響も無いってことだから」 滝は一呼吸置くと、鳳の胸に光るクロスのペンダントを小突いた。 「現に君は行動制限装置と一緒に過去へ飛んだ。歴史改ざんの罪に問われるようなことは、何一つ出来やしないよ」 滝は安心させるように笑いかけた。 様子のおかしい後輩を心配しているようだった。 けれど鳳はそれを取り繕うこともなく、そのまま部屋を後にした。 鳳は一人廊下に佇んだ。 見上げた狭い空には人工の太陽が燦々と降り注ぐ。 偽物の太陽とは似ても似つかないというのに、なぜか亮の笑顔が重なる。 「俺……彼のこと見つけられるかな」 出会うことなど無かったはずの、亮。 それでもこうして出会うことが出来た。 これが運命でなくとも、鳳にはすでに迷いなど無かった。 「いえ、探し出してみせます。俺も相当あなたに惚れてますから。亮さん」 写真の裏には擦り切れた文字が記してあった。 几帳面に並んだ右上がりの短文が愛しい。 いくら時間が経とうとも色褪せない、ただ一つの想い。 すげー惚れた。 絶対、探し出してやるから待ってろよな。 宍戸 亮 End. 前 Text | Top |