◇パラレル | ナノ



unknown 4


「―――ねぇ、俯いてたら撮れませんよ」
「うっせぇな、ちょっと待て。心の準備が……」

ファインダーから見える彼は、少し前に写真撮影を潔く了解したその人とは別人だった。今さら酒の熱が冷めてきて緊張しているのが鳳にも分かる。
そんな風に照れている彼は、なんだか微笑ましい気がした。

「ふ」

思わず笑いこぼすとぎろりと視線を送られた。

「てめ、笑うんじゃねぇ。仕方ねーだろ、……初めてなんだ」
「俺もどきどきしてますよ」
「おい、写真家だっていうんならこっちの緊張解くとかしろよ。自然な表情が撮りたいんだろ?」
「あ、そうですよね」
「本当に写真家かよ……」
「はい」

訝しむ言葉とは違い、青年の表情はやさしく許すような笑顔だった。
鳳も青年に自分が写真家だと信じてもらおうとするのはとうにやめていた。
そうしなければ調査は進まないというのに、一方ではどうでもいいことのように感じていた。

「それじゃ、お話しましょう」
「なんだそりゃ」
「あなたと俺が出会って、今、同じ時間を共有してます。そんな奇跡みたいなことが起きてるんですから、楽しく過ごしていたいです」
「気障な奴」
「最近ね、あなたの仕事が終わるのを待ってるのが楽しいんですよ、俺」
「おかげで今日も連れ回されたな」
「俺だけのせいですか?あなたこそ酔っ払ってあちこち引っ張り回したじゃない」
「いいんだよ。今日は飲みたい気分だったんだ」

青年はふいと向こうを見る。

「でも、さすがに飲み過ぎですよ?」

そっぽを向く青年に、鳳は静かに近づいた。
青年は鳳が近づいてくるのに気がついても、黙って待ちうけている。
瞳の揺らめきに惹きつけられるような錯覚が押し寄せる。

「……まだ、頬が赤い」

そっと触れた青年の身体は焼けるような温度を孕んでいた。
鳳は、触れた皮膚一枚の下にもっと熱いものが流れているのを感じていた。

「長太郎」

鳳の手も言葉も青年に引き寄せられるかのように自然と動く。
彼の声はそれを誘発するかのような響きがある。

理解できない感情が溢れだす。
鳳は再び、不思議な焦燥感に襲われた。

「………っ」

鳳は落ち着こうと思い、青年から視線を逸らした。
俯いて浅く息を吐き出しても、その頬に触れる手は離れない。

これ以上はいけないことのような気がする。
でも、制御するものはどこにもない。


「長太郎……」


青年が今一度名を呼ぶ。

その響きに甘さを感じるなんて。
どうかしている。

「……あ、その……」

自分は何に言い訳しようとしているのだろう。
そんな言葉より、手を離さなければ。

しかし彼の方は離れようとしない。

その瞳は何かを待っているようで。


「俺……は、……」

「長太郎」

「俺は……」


はやく。
はやく、はやく。

その手を。















「亮、だ。」












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