◇パラレル | ナノ



忍えもん! 1


22世紀からやって来た、関西人型ロボット――忍えもん(おしえもん)?


「そうや。お前を救うために来た…というのは理由の半分で、実は調査に来たんや」


調査?なんのですか?


「恋愛に悩める男を大々的にサポートできるわ、めっちゃ満足させられるわっちゅー調査♪」


あ、怪しいんですけど……。


「ええから、ええから!ただ、俺、未来人やからアパート借りるの面倒やねん。ちょーっと押し入れ貸してくれたら、宍戸亮君、キミのもんになるで?」


えっ…な、なんでそれを!


「フフフ。少しは信じる気になったか?」






【忍えもん!】






鳳長太郎は、ずっと一人の人に恋をしていた。
相手は一つ年上の先輩、宍戸亮。
初めはとっつきにくい人間だと思っていた。だが、テニス部で彼の特訓に付き合い、努力家だとか、本当は世話好きだとか、たまに見せる笑顔が可愛いとか……隠された素顔を知ると途端に好きになってしまったのだった。
その後ダブルスを組むと、尊敬や憧れの気持ちは鳳が自覚する暇もないままに、性別を超えて恋になった。

「鳳〜。うち帰ろうや」
「………」
「え?なになに?帰らんの?まさか…きょ、今日こそ宍戸とセッ」
「わあぁぁっ!!それ以上言わないで下さい!」

練習終了後の部室。
鳳が大声を出すと部屋がシンと静まり返った。
鳳は慌てて声を押さえると「俺も帰りますって!」と忍足に耳打ちした。

「なら最初からそう言ってや」
「あんまりその話題出さないで下さい。忍足先輩がうちに…いや、俺の部屋の押し入れに居候してるなんて知られたら、どうするんですか!俺、気味悪がられちゃいますよ…っ」
「なんやそれ。俺がおばけかなんかみたいな言い方やんけ」
「22世紀から来たとか言うアホはおばけ以下ですよ、もう!」
「ひど…!」

忍足と鳳がヒソヒソ言い合いをしていると、不審に思った宍戸が近付いてきた。
宍戸は、鳳の肩にポンと腕を掛けると、少し上にある瞳を覗き込んだ。

「何しゃべってんだよ、オイ」
「えっ、あっ!宍戸さん…っ。な、なんでもないですよ、別に」

鳳は片想いの相手に急接近されて、顔を赤くしてしまう。
忍足はそれをにやにやしながら観察し、しどろもどろになった鳳に同意した。

「そや。別になんも内緒話はしてへん。鳳の好きな人の話やからな」
「えっ、」
「ちょっ…忍足先輩!!」

鳳はまた声を荒げてけん制したが、忍足はにっこり笑うばかりだった。
鳳は叫びだしそうだった。宍戸には好きな人がいるとは一言も言っていない。そんなことを話して、万が一にでも宍戸だとばれてしまえば、今の居心地のいい環境は跡形もなく崩れ去るだろうから。

「宍戸ならそれくらい聞いてるやろ?なんたってダブルス組んでるもんなぁ?」

宍戸の、形の良い釣り気味な眉がぴくりと動く。
鳳はどう言い訳しようかとそればかり考えて、それに気付きもしなかった。

「……てる……」
「…え?」

鳳が聞き直すと、宍戸はそっぽを向いてしまった。

「知ってるよ!長太郎の好きな奴くらいっ」
「…えぇ!?」

そんなはずはない。鳳が混乱していると、忍足の晴れやかな声が響いた。

「そーやんなぁ!別に鳳とコンビでもないただの先輩な俺が知ってるくらいやから、宍戸は当然やんなぁ!」
「おうよ!こいつは俺の後輩だからな!…ち、長太郎、そろそろ帰ろうぜっ!」

宍戸は鳳の顔を見ないままその場を去り、ロッカーからバタバタと鞄やブレザーを取り出し始めた。

「あー鳳。宍戸と帰る前に、ちょおこっち来て」
「……」

頭が真っ白なまま、鳳は忍足に部室裏まで引きずられていった――。





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