famous 2 その後、会員制のテニスクラブでばったりと再会を果たした俺と長太郎は、テニスを通して徐々に親しくなり友人になった。 急過ぎる展開に驚いていたが、なぜかお互いを知れば知るほど息が合うようで、戸惑いつつも会うことをやめたりはしなかった。 それと。 実は、俺は男しか恋愛対象に見れない性質だった。 その頃、長太郎とますます親しくなった俺は、あいつがきらびやかな世界の裏で惜しむことなく努力してその地位を守っていることを知った。 根は真面目だし、努力家だし、人に優しく接するし、愛想もいいし。 とにかく性格がいいのだと知った。(そこが王子と呼ばれる所以か?) 良い奴なのは分かりきっていたし、やはり…魅力的、だったし、ほんの少し恋愛感情が芽生え始めていた。 けれど俺だって大人なんだから。 住む世界が違い過ぎるなんてことは知ってる。 ―――それなのに、長太郎が好きとか言うから。 あんな綺麗な顔を切なそうに歪めて、好きです、とか言うから。 結局ほだされちまったんだ。 かけ離れた人生を歩む長太郎との関係に不安は残る。 でも、今日のような日はそんな心配も消えていく。 久しぶりに会った長太郎がいつものように甘えてきてくれて、変わらず俺に好きだと言う。 それがあれば遠い距離にいたとしても信じられた。 「ねぇ宍戸さん。ちょっと休んだら…また、しよ?」 ほんのり頬を赤らめて極上の笑顔を向けてくる。 言いながら、いつも胸元に下げているクロスを弄る。 これは緊張してたり恥ずかしかったり、自信が無かったりした時の長太郎の癖。 「おまえ…まだヤル気あんのかよ」 俺が呆れた風を装って言うと、長太郎はさらりと言い切った。 「宍戸さんとならいくらしたって足りません。…ねえ、いつも頑張ってるごほうび下さい」 あぁ、また。 意識してやってるのか? その、はにかんだみたいなおねだり顔。 「…はぁ……」 俺が盛大に溜め息を吐いてから枕に顔を沈めると、次々と言葉が降って来た。 少し高音に、やわらかく響く長太郎の声。 ね?いい?宍戸さん。 可愛い宍戸さんが見たいなぁ。 …お願い。 あ、かっこいい宍戸さんも見たいですよ、もちろん。 あとはねセクシーな宍戸さんも。 ねぇ、宍戸さん。 大好き。 愛してます。 こっち見て下さーい。 見たいよ、好きなんだもん。 すっごく好き。 宍戸さん以外いらない。 ねぇ、宍戸さんも俺のこと、好き? 愛してる? ほんと? じゃあ、本当かどうか、確かめてもいい? とか云々。 俺はしつこいおねだりにとうとう了解の返事をした。 それに、そんなに嫌だなんて思ってなかったし。 ちょっと黙ったら長太郎がじゃれてきて楽しかったから、引いて見せただけ。 俺が、いいよ、と返事をした途端、水を得た魚みたいに生き生きとなった長太郎は、俺に覆い被さりながら徐々に大人びた顔つきをみせる。 それを目の当たりにして、俺はいつかスタジオの隅で目が離せなくなった光景を思い出していた。 ―――長太郎がする、見る者の意識全てが惹きこまれてしまう表情。 それに少しの情欲を湛えて、俺の肌をやさしく静かになぞる。 迫る口付けに俺はゆっくり目を閉じ、柔らかな感覚を待ちわびた。 「あー…だるい」 もう起き上がる気力も無いほどセックスしたというのに、長太郎は能天気なことを言う。 「そりゃ、会えなかった分の気持ち全部、ですもん」 「明日休みにしてマジ良かったぜ」 どうせこいつが一日そこらで俺を解放してくれるとは思ってなかったし。 「明日も一緒に過ごしましょうね、宍戸さん」 「わかってるよ。あのスニーカー履いて欲しいんだろ?」 「はい、ぜひお願いします」 「つってもおまえと行けるところも限られてるからなあ。どこ行くかな」 行く先々で指をさされたのでは落ち着いてのんびり過ごすことも出来ない。 ここはやはり、いつもの室内テニスコートか。 そんな考えを巡らせていると、長太郎が爽やかに微笑んで謝った。 「すいません、有名過ぎて」 「おい。少しは謙遜したらどうだ」 「へへ。スキャンダルで一緒に週刊誌に載りますか?宍戸さんも有名になれますよ」 「バカ言ってんじゃねえ。何がスキャンダルだ、アホ」 「嘘ですよ。俺の愛しい宍戸さんを大衆に晒す訳ないじゃないですか、もったいない」 「…はぁ。付き合ってらんねぇ。疲れたから寝る」 「え〜、もっと話しましょうよ〜」 「また明日な」 「まだ眠くない」 「俺は眠いの」 延々と駄々をこねる長太郎を無視して俺は目を瞑った。 前 次 Text | Top |