「チョタロの動く城」 突然、部屋の中が不気味な闇に包まれました。 火の悪魔オシファリが叫びました。 「ちょお、やめぇや、チョータロー!」 「チッ、闇の精霊を呼び出してやがる。……前にも女の子にフラれて出したことがあるんです」 チョータローの弟子のヒヨシが忌々しげにシシドに説明しました。 「……!」 シシドは驚きました。 一緒に風呂に入ろうというチョータローの誘いを断っただけで、まさかこんな事態に陥るとは思いもよらなかったからです。 シシドがきれいに掃除したとはいえ、でかい男とあの狭い風呂に入るのは居心地の良いものではありません。 ましてや、そういう目で見てくるような同性となんて。 いや、今はそんな言い訳をしているよりもチョータローを止めなくてはなりません。 「さぁチョータロー、もう止めだ。うちの風呂は狭いし、今度みんなで温泉にでも行けばいいだろ。な?――おわ!?」 シシドが、腰にタオルを巻いたまま椅子に座って拗ねているチョータローの肩に手を触れると、ネバネバとした緑色の液体が付着しました。 液体は溢れ出し、チョータローの身体からどろりと滴り落ちました。 シシドは動揺して、自分勝手なチョータローについにキレました。 「もう、てめぇなんか好きにすればいい!」 シシドは城の外へ飛び出しました。 (ったく、チョータローのやつ……おまえの気持ちにどうしていいか俺が悩んでることに気づけっつーんだよ!……焦り過ぎなんだ、おまえは……) しばしの間、雨に打たれ落ち着いてきたシシドは、あからさまに好意を寄せてくる男にどうすれば良いのか考えていました。 「クソ……ッ」 ですが悩んだところですぐに解決できそうもありません。 その時、ずっと城の外にいたカバジが背後からそっと傘を差してくれました。 「……サンキュ。おまえは優しいカバジだな」 カバジはウス、と言ったきり、そのまま何も言わずに隣に立っていました。 それが慰めてくれているようで、シシドは熱くなっていた頭が冷えていくのを感じました。 「シシドさん!」 慌てた様子でヒヨシが駆け寄ってきました。 「お願いします、戻って来て下さい!チョータローのやつ、大変なことになってます!」 「チョータローやめんかい!き、消えてまうがな――っ!!シシドー!早よ来てくれっ!」 シシドが部屋に戻ると暖炉の前は酷い有様になっていました。 チョータローの全身にまとわりついていた緑の液体が大量に流れ出して、今にもオシファリの命の灯火を消してしまいそうです。 「……派手だなー」 「死にましたかね」 シシドと、そしてなぜかヒヨシも冷静に呟きました。 「大丈夫だよ。拗ねたくらいで死んだ奴はいねぇ」 シシドは袖をまくり「手伝ってくれ、ヒヨシ」と言うと、チョータローの項垂れているまま腰掛けている椅子を押し始めました。 城の2階にあるバスルームに行くためです。 どうにか階段の下まで辿り着くと、シシドはチョータローの腕を肩に担ぎました。 「ヒヨシ、お湯はたっぷりな」 「はい」 ヒヨシは先に2階へ上がり、バスタブに湯を張りに行きました。 「ほら、てめぇの足で歩けよ」 シシドは自分よりガタイが良くただでさえ重い男を一生懸命に運びました。 しかし途中、チョータローの腰に巻いていたタオルが落ちてしまいました。 シシドはちょっとびっくりしましたが、バスルームの戸口を睨むと再び一歩踏み出しました。 「……しょうがねぇから、一緒に入ってやるか」 またわがままを押し通されたと自覚しながらも、シシドは隣をぐったりと歩くチョータローを到底嫌いになどなれそうにありませんでした。 End. シシドが荒地のサカキにかけられた呪いは、氷帝レギュラー落ち。 前 次 Text | Top |