狐の灯 4 「…え?」 亮は真っ赤な顔で着物を直すと、その襟から一枚木の葉を取った。 一瞬、白い煙が長太郎の視界を遮る。次に目の前に現れた亮は髪の毛が短くなっていた。胸の膨らみも、ない。 「ごめん…、俺、長太郎を満足させてやりたくて、それで女に化けてただけなんだ。その方が、喜ぶと思ったから。けどもう嘘吐いても仕方ないだろ」 亮はもう一度ごめんと謝ると、真下から長太郎の着物を直している。 「本当にごめん。途中から俺も調子乗っちまったし…」 「亮さん…」 「わ…」 長太郎は信じられないのか、亮の身体をぺたぺたと触り始めた。 「……んっ……ん……」 亮はくすぐったかったが我慢した。脚を擦り合わせて、尻尾で布団を擦り、むず痒いその手の感触をやりすごす。 肌をなぞっていた手は亮の胸が平らなのを確認するとようやく動きを止めた。 亮は緊張に詰まっていた息を吐き、長太郎をそっと見上げた。 「あのさ、長太郎。女は無理だけど、今度、鮎がたくさん獲れる川を教えてやるよ。そ れから、俺、山葡萄の生ってる場所も知ってる。だから、な?」 頭を優しく撫でると、亮は小首を傾げて長太郎を見つめた。 「………でも、いい…」 「え?」 「男でも、オスでもいい。亮さんが欲しい」 「…え、ちょう」 長太郎どういう意味だと聞き返そうとした時には、亮の唇は塞がれてしまっていた。 あっという間に帯は解かれ、脱がされた着物は部屋の隅に放り投げられてしまった。肌をさんざん弄られ、あらぬところを舐められて、長太郎に貫かれて、亮はいつしか声を上げてその背にしがみついていた。 翌朝。 「亮さん。亮さん、起きて下さい」 優しく肩を揺すられて、亮はゆっくり目を開けた。 「ん…――っ痛ぇ…っ」 寝がえりを打つと腰に鈍痛が走り、亮は布団へと突っ伏した。 「あ、だ、大丈夫ですか…っ」 「……全然大丈夫じゃねえ」 「…ごめんなさい…」 しゅんと項垂れる長太郎に、腰の痛みに耐えて背を向けると、亮は真っ赤になった頬を腕で隠した。 昨日の自分の見っともない姿が思い出されて、死ぬほど恥ずかしい。 長太郎に夢を見せてやろうと化けてみたのに途中で術が解けてしまうわ、快感に流されて男を受け入れてしまうわ。 術が解けたのだって、長太郎に夢中になって集中力が乱れたせいだ。礼をするつもりが絆されてどうする。 「…亮さん…ごめんね、無理させて」 「いいよもう」 「俺、亮さんのこと好きです。男とか女とか、狐とか関係ない。もっと一緒にいたいです」 長太郎は言いながら亮の隣に添い寝をする。 「……」 「旅の用事が終わったら、またここへ来てもいい?一緒に村に帰ろう」 背後の長太郎が亮の尻尾を撫でながら泣きそうな声を出している。 耳の先に唇をそっと寄せられて、好きですと囁かれた。 亮は一度ぎゅっと目を閉じると、小さく肩を落とした。 「俺は麓の村へ行って、日が沈む前にここへ戻ってきます。亮さんは、今日一日とにかくゆっくり休んでいて下さい。…本当にごめんね、亮さん」 「るせーな。謝んなよ」 亮は長太郎の手を尻尾でぴしゃりと叩いた。 「だって、亮さん…怒ってるから」 「怒ってない」 「怒ってます」 「怒ってなんかない」 「怒っています」 長太郎はそっと腰を抱きしめて、「本当にごめんなさい…」と言った。 「もう謝るな。怒ってねえってば」 照れてるだけだと。 これからも傍にいれば、彼はそれを悟ってくれるようになるのだろうか。 End. 前 次 Text | Top |