◇パラレル | ナノ



初恋リスク 5


「宍戸さん、そんなに俺にされるの嫌?」
「…いや…別に…」

歯切れ悪く答えた俺を、やっぱり長太郎は見逃さない。

「小さいから?年下だから?宍戸さんよりひ弱だから?」

卑怯な言い方だ。
長太郎のそんなところも俺にはプラス要素だけれど、肯定すればこいつは悲しむだろう。

「そんなんじゃねえよ。別に、そこまでこだわってはねぇけど、ただ想像と違ったっていうか……」

とにかく思い描いていたのと違うんだよ。
ホントそこが…正直、それだけしか引っかかるところがないんだけど。
俺は長太郎なら、何歳だろうと、性別がなんだろうと構わないって思ってる。
それに、あのとき勇気を振り絞って告白してくれた長太郎に感謝してる。
俺からも何かできたらって、ずっと考えていた。

「想像?宍戸さん、俺でヤラシイこと考えてたんだ?」
「てめえもだろ。出演料請求するぞ」

じゃあ宍戸さんもね、なんて返されると思っていたら。
相変わらず拗ねた顔を残したまま長太郎は言った。

「俺は永久に無償だよ。彼氏だもん」

青天の霹靂。

『彼氏』

包み込むように抱きしめてきたり。
自分からキスをしてきたり。
俺を気持ち良くさせようとしつこいくらい踏ん張ってみたり。
チビでガキだけど、こいつも一応は男だったってことか。

「………彼氏……か……」

それは俺の知らない長太郎。
もしかしたら、いつか、他の誰かが知るかもしれない。
その時俺は、今日拒んだ長太郎を知らないままでいて、ありきたりな記憶だけで満足できるんだろうか。
何も思わずに、そんな長太郎にまた幼馴染として接したりできるんだろうか?

「わああ〜。宍戸さんから聞くと果てしなくいい響きですねぇ。彼氏だって!えへへ」

さっきまでむかっ腹立ててたくせに、たった一言で機嫌直してる。チョロ過ぎだぜ(ツボがいまいち分からないけど)

「…もういいや。好きにしろよ」
「え!あれっ!?OKしてくれるんですか?」
「ま・ず・は・おまえの言うとおりしてやることにした」

が、かなり白けた……。
今まで妄想の中でどれだけ長太郎よがらせてきたと思ってんだ(それはこいつも一緒か…複雑だな)

「やったぁ!」
「感謝しろよ」
「うん!ありがとう宍戸さん!ホントに大好き」
「あーやる気出ねえなぁ」
「大丈夫大丈夫!リラックスです」

仕方なくベットに寝転ぶと、きゅっと手を握られた。長い指に優しく包まれて、不満が少し喉の奥へ帰っていく。
そういえば長太郎、身長のわりに手が大きいよな。靴のサイズも俺と一つしか違わない。
まぁけど俺より全然チビだけどな。

「そんなこと言って、そっちのが好きになるかもしれないよ」
「はぁ?絶対ねえだろ。つか興奮出来なかったらごめん」

いや多分ちょっとはするけど。こいつ調子乗るから。
ぶっきらぼうに言ったのに、長太郎はにこにこしてる。

「愛があるから大丈夫です」

言葉とともに暗示をかけるように長太郎の唇が手の甲に落ちる。
それを見て、不覚にもかわいいともかっこいいともつかない感情に陥ってしまった。

「なにその自信。へなちょこのくせによ」
「!?ひ、ひどいよ宍戸さん、こんなときに、」
「って股間押さえんなアホ!性格だ性格!!」
「あ、なんだ」
「…頭おかしいだろマジ…」
「だってこんなときに言うから。どっちも成長するから待ってて下さいね」

長太郎は至極爽やかな笑顔でそう言って、俺の頬にまたキスをした。

「発言がエロ親父と紙一重だ。……顔はかわいいのによ」
「俺なんかより宍戸さんの方がずっと可愛い」
「悪趣味」

やっぱり俺が下なんて変な感じがする。
まだちょっと踏ん切りつかない俺を置いて、長太郎は人の肌のいたるところにキスをしながらネクタイやらボタンやらをてきぱき外していく。まさしく水を得た魚のよう。

「宍戸さんは自分の魅力が全然分かってないです。そこがいいのかもしれないけど……」

でも、この体勢になると長太郎がいつもと違って見えて。
……ドキドキする、かも。

「宍戸さんはね、綺麗でカッコよくて高嶺の花ってかんじです。なのに気さくで優しくて……俺のこと嫌な顔しないで受け入れてくれました。いつかの帰り道だって。今日もだよ」

そんなこと当り前だ。
ずっと好きだったんだから。
いまだにうまく言えない言葉を思いながら、乗り上げてきた長太郎をじっと見上げた。
どうしよう。
長太郎が触れたところから身体がみるみる熱くなる。

「その黒くてきれいな瞳が好きです、俺」

射抜くような熱いまなざしにじっとしてるのがもどかしくて、照れ隠しに長太郎を引き寄せた。
その拍子に、顔を寄せた白い首筋がどくどく脈打っているのを感じてしまった。
良く見れば肌が薄赤い。

「…長太郎、もう無理してしゃべんなくていいよ。……早くしろ」
「…はい。宍戸さん」

キスしてぼうっとなってしまえば、恥ずかしさも少しは消えるだろう。
まだこの状態に心の底から納得できた訳じゃないが、好きなヤツと愛し合えればなんだっていいんだよ。
想いが通っただけで奇跡だと思ったんだから。




End.





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