初恋リスク 4 「宍戸さんが」 「………おまえ、それ本気で言ってんのか?」 「え。はい」 「冗談だろ!?」 即答した長太郎に思わず声を荒げると「やっぱり男はいやだ?」と涙ぐまれる。 「違うけど。うるうるすんな」 「じゃあ、どうして」 「つーか逆だろ。俺がおまえを、その……」 言葉を濁すと、言いたいことが分かったのか、目の前のぱっちりした目が驚愕でさらに大きくなる。 「えっ、う、嘘でしょ!?」 「こここ、こんなこと嘘吐くかよ!おまえこそそんなナリしといて何言ってんだよっ。どう考えてもおまえがやられる側だろ!」 俺の発言に頭が真っ白なのか、長太郎は呆然としている。 あ、もっと上品に言えば良かったか…。 「……意味が分かりません。どうしてそんなこと……」 「だってさ、長太郎のがチビだし、なんていうか、」 「チ…!?」 「だから、お、俺が言いたいのは……、そこら辺の女よりおまえのが、か、かわいいと思ってる、ってことだよ!だから付き合ってるんだし」 激論の最中悪いけど、俺は心の中でガッツポーズした。 やっと言えた。 照れ臭くて言えなかったけど、いつも頭の中ではこう思ってたんだ。 長太郎が好きだし、かわいいと思ってるって。 俺だって長太郎を喜ばせたい。好きだってこと伝えたかった。 「長太郎……なんだよ、何か言えよ……」 不器用なりにも愛を伝えたつもりなのに、思ったより喜んでくれない。 むしろ暗い顔をされた? 「宍戸さん……俺のことそんなふうに思ってたんだ」 「え……、おう」 「これから毎日、牛乳、飲む…」 「あ。ごめ、…チビとか言っちまった」 「いいです。事実だから。……それより役割分担の話ですが、俺もそこは絶対に譲れないです」 んだと? 「おまえがやるって言うのか」 「はい」 瞳を逸らさずにこくんと頷いた長太郎。 なんだなんだ。さっきまで尻尾振ってきてたくせに、その目は。 俺は腕組みをして凄み返す。 「断る」 「どうしてっスか」 思いっきり不満顔でそう返された。 だが今回ばかりは俺から折れるわけにはいかない。 かなりの死活問題なんだから。 「あのさ、長太郎。おまえよりでかくてごつい俺をだ、その、女の代わりみたいにして楽しいか?」 「宍戸さんは誰の代わりでもない」 …………あ、そ。 「じゃあ…ぶっちゃけた話、俺にいれていけると思う?」 「はい」 「なら俺が喘いでんの見て興奮できんだ?おまえ」 「当り前ですよ」 怒り顔で断言する長太郎に、俺はとうとう吹き出してしまった。 「ハッ!…へ、変態かよおまえっ……ははは」 失礼だと思いつつも大笑いしてしまうと、長太郎は痺れを切らせ俺の胸に縋りついてくる。 「どうして俺がしたらいけないんですか可笑しいんですか変態なんですか!?ちゃんと聞いてよ!ていうか宍戸さんだって昨日さわりっこしたときに可愛らしく喘いでたじゃ……イタッ!痛い!ごめんなさいっ!」 「うっせバカ野郎!!テメェが変な触り方するからだよ!やめろっつってもやめねえからだバカ!黙れエロガキ!!」 長太郎がとんでもないことを言いそうになったので枕でぶん殴ってやった。 まだ記憶も新しいことを言うな……!! 「ご、ごめんなさいっ、もう昨日の可愛い宍戸さんは心にしまっておきますから」 「あ!?」 最後聞き捨てならねえ言葉を吐いた長太郎の襟を掴み上げると、長太郎も「あ」と叫んだ。 「それなら交代制はどうでしょうか?で、今日は俺が宍戸さんをする方」 「はぁ?なんだよそれ。いやだ、ぜってーヤダ」 「だって宍戸さんも俺も同じ方したいって思ってるし。どっちも譲る気ないなら仕方ないですよ。お互い小さい時から頑固なの分かってるでしょう?」 「なんでおまえが先なんだよ」 「宍戸さん、仕方知ってるんですか?」 「あんまり」 「あんまり?」 「…というか……全然知らね」 大まかには知ってるけど、いざやれと言われたら――どうすればいいんだ? よく分かんねえ。つか、そんなのどこで教えてくれるんだよ。 「男同士は大変なんです。なのに欲望を優先してひどいことするんですか?」 「それはしたくないけど」 「じゃあ俺が先ですよね。知識だけは宍戸さんよりありますし」 「自慢する事じゃねぇし」 「ではさっそく仰向けに寝転がって下さい」 そう言って長太郎は俺の肩を押してくる。 俺は慌てて押し返した。 「おい!今ので結論出すのかよ」 「だって今ので解決してるじゃないすか。俺の方が知識があるから、実践しながら手取り足取り宍戸さんに教えてあげますってことで一石二鳥ですよ。そうでしょう?」 「………」 確かに、――とは思っちまったけど、ここで返事をしたらいけない。 うまく丸め込まれてしまう。他のことならこちらが優位なのに、俺はコイツに口で勝てた試しがないし。 前 次 Text | Top |