初恋リスク 2 でも舞い上がってばかりいられない。 両想いになれたって、長太郎はまだ中学生だし、なにより、俺達、男同士だし。ホモだし。 どんだけ好きでも普通に付き合ってる奴らより慎重に付き合ってかないとまずいと思う。 人目は避けたいし、なにより13歳の長太郎の気持ちも尊重しないといけないしな。 だから俺は、ゆっくり時間をかけて、長太郎と……なんて思っていた。 それなのに。 「…宍戸さぁん…」 この独特の呼び方がサインだ。 ベットに寄り掛かってマンガを読んでいると、机で宿題をしていたはずの長太郎がいつのまにかすりすりと懐いてきた。 次いで「キスしたいです」的な熱視線を投げかけてくる。 「な、何だよ」 「…好きです…」 あれよというまにマンガを取られて、手持ちぶさたになったところを抱きつかれてしまう。 泣き虫・弱虫・意気地なしと思っていた長太郎に、こんな積極性があったなんて信じられなかった。 そうしてつい怯んでしまう俺にお構いなく、長太郎は会うたびスキンシップを求めてくる。 せっかちなのか強引なのか。 それとも思春期真っ盛りで、そういうことに興味深々で我慢も効かない年頃だからなんだろうか。 俺はどうだったっけ?こんなんだっけか? 「宍戸さん…俺にくっつかれるの、嫌ですか?」 なんて不安げに上目遣いをされてどうしろと。 でも、これを許して当たり前にしてしまったのがいけなかった。 「いいから…目、閉じろよ」 「はいっ」 さっそく手を出してしまったわけだ。 俺だって健全な男子高生なんだ。 据え膳食わぬわなんとやらだ。 でも大丈夫だ、ちゃんとキスまでって俺は決めてるからな! ぱっと顔を赤くして瞼を伏せ、キスが来るのが待ち遠しいといった雰囲気の長太郎。 じっと観察していると、頬がむにむにしてて摘みたくなった。 俺の真似して始めたテニスで、放課後毎日外にいるはずなのに…肌も白くて、首筋とか、鎖骨とか…なんていうか…。 「………」 もう長太郎について考えるのはよそう。 俺はかぶりをふって深呼吸すると、長太郎にキスをした。 「えへへ。じゃあ、次、俺します」 「お、おう…」 うれしいけど、あんまりくっつかないで欲しい…。 長太郎は俺の困惑に気付かないまま、顔を近づけてきた。 しかしだ。 俺はこの頃、小さな長太郎に大きな違和感を感じている。 長太郎はよく勝手にキスしてくるし、俺を抱きしめたりする。 うれしいことはうれしい。でも、これって逆じゃねえか?と思う。俺が長太郎にキスをしたり、俺が長太郎を抱きしめたりして、リードするような状態を想像してたんだけど。 「好きです。大好き」 「知ってる」 ああ、しかもこれだ。 照れくさくて「俺も好きだ」と返してやれない。分かりきってることをいちいち繰り返すのが好きじゃないんだよ、俺は。 そんな自分の反省点は置いておいて、でもまぁ積極的な恋人は悪くないかなんて納得してしまっていた。 でも違和感は少しずつ、少しずつ大きく膨らんでいく。 たとえば、キス。 長太郎はキスになるとちょっと豹変する。けっこう焦る。 夢中になってしばらく放してもらえなくて、終わるころには酸素不足になってしまう。 ……俺だけが。 仕掛けてきた本人はというと、興奮しきった顔はしているもののどこか余裕があるふうだった。 その証拠にやめろと言わなければ何度でも迫ってくる。 「宍戸さん、もっかい…」 「はぁっ……おま、…うぜえっ」 最初は付き合ってやってたけど、近頃いい加減イライラしてきた。 なんで俺だけこんなハァハァ言ってんだよ! ちゃんと応えてやってるつもりなのに。ムカつく。 着々と経験値を上げる長太郎のキスは(俺もそのはずなのに)日毎に激しくなっていく(俺は消耗が激しくなっていく) 関係ないけど、長太郎って料理や裁縫はまるでダメなくせに、美術はオールAだったり変なとこだけ器用な奴だ。 俺は「もしかしてキスも?」と疑い始めている。 そんなふうにマセガキに絆されちゃってる自分が嫌なら控えりゃいいんだけど、苦しい反面、気持ち良くて止められない。 「宍戸さん、俺、止まんないんだけど…」 「な!俺はっ、もう、」 迫ってくる長太郎の目がなぜだか怖い。 「…触っても…いいですか…?」 脇腹を撫でられ身体がびくりと震えてしまう。 背中を駆け上がってきたものに思わず息を詰めると、真正面に座る長太郎は硬直したように止まった。 それにしても危ない……今、変な声が出そうだった。 「し、宍戸さん…あの、俺…っ」 俺の身体を挟んで後ろへ回っていた両脚が腰にぐっと絡みついてくる。 「…お願い…」 「お、お願いって、なにを…」 「大丈夫だから。お願いします」 まだ返事をしていないのに、勝手にベルトが外されていく。 いやいや、待ってくれ。 俺の知っている長太郎はさ、泣き虫で、けど優しくて礼儀正しくて謙虚で、姉貴と瓜二つで(でも姉ちゃんより可愛げがあって)あと生意気で頑固な面もあったりして、えっと、こんなもんだ。 十何年、こんなもんだと思ってた。 けれどなんだ。 この頃垣間見せるようになったかすかに男っぽい目つきに抗い難さを感じている。 「っバカ…どこ触って……んっ」 「宍戸さん…好きです…」 今回もやっぱりその目に流されてしまった。 と言っても、その、お互い触って気持ち良くなっただけ。 …って俺、全然我慢できてねえじゃん!? 前 次 Text | Top |