初恋リスク 1 いつだったろう。同性の幼馴染に対する異常な恋心を自覚してしまったのは。 絶対に伝えられないのに想いを捨てることもできずに、俺はずっと悩んで、ずっと苦しんでいた。 でも、ある日突然――奇跡が起こった。 「ずっと、宍戸さんが…好きでした」 え?……夢…じゃないよな? 放心状態の俺の目の前には、4つ年下の幼馴染である長太郎がいる。 二人で遊んだ帰り道。 震えた声や、緊張した面持ち。 我に返って琥珀色の瞳を見下ろせば、ぽろりと蜜のような涙がこぼれた。 「マジ、かよ」 「は…はぃ…」 次の涙が目尻に溜まりはじめる。 長太郎がもともと泣き虫だということは置いといて、涙が出るほど苦しかったというのはよく分かる。 男が男を好きになるなんて、叶う望みは無いに等しいものな。 俺だってすっげぇ悩んださ。 「すみません、気持ち悪いこと言って。宍戸さんが困るのは分かってたんですけど、気持ちだけ、どうしても伝えたくて、俺……」 怯えるように揺れる柔らかそうな銀色の髪。瞬きするたびにバサバサ動く長い睫毛はしっとり濡れ、消えてしまいそうに儚い。男にドキドキしておかしいなんてそんなこと、どうでも良くなる。 こんな好きなのに言う勇気もなかったなんて。俺は激ダサだ。 ちっこくたってべそかいてたって、今の、この目の前の長太郎は、生まれて初めてカッコいいと思った。 「泣くなよ」 俺の視線に耐えきれなくなったのか、俯いてしまった長太郎の頭をぽんぽん叩く。 長太郎はびくりと肩を揺らし、目を固く閉じた。 「泣くな。……俺も、だから」 「……え……?」 「だから、俺もだって。気持ち悪いなんて思ってない。…うれしい」 「ほ、本当に、本当?」 抱きしめると、長太郎の涙はぱたりと止まった。 いつまでも男同士で抱き合ってるわけにもいかない。すぐに離れて歩き出すと、数テンポ遅れて追いついてきた長太郎が鼻を真っ赤にしたまま笑った。 「宍戸さん」 「ん?」 「宍戸さん」 「何だよ」 「ありがとう」 俺も、長太郎に『ありがとう』って気持ちになった。 でもなんとなく恥ずかしくて言えなくて、長太郎の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。 それでも長太郎はうれしそうに笑う。 叶わないと思ってた想いが通じたことは本当に嬉しくて、そして幸せだった。 前 次 Text | Top |