◇大学生*社会人 | ナノ



Last blue night 5

「あの、宍戸さん」
「俺、まだ飲むし。おまえ寝たけりゃ寝ろよ。心配しなくても、もう外は行かねーよ」

ムカつく。
そして悲しい。空しい。
誕生日を祝ってくれたって、心配してくれたって、それって全部、長太郎がお人好しな性格だからしてくれることなんだろ。
たぶん、他のヤツにもしてる。誰にでもできる。長太郎はそういう奴だ。誰にだって公平に優しくするんだ。
それを俺が勝手に特別だと喜んで浮かれてるだけ。

「宍戸さん」
「おやすみ、長太郎」

俺が酒をあおり始めると、長太郎は慌てたように冷蔵庫から酒を1缶持ってくる。
そして俺の隣に座り込んだ。

「俺、寝ません。まだいけます。あ、ほら、もうすぐ宍戸さんの誕生日になりますね」
「知ってるよ。だからお前来たんだろ」

そっぽを向いても、長太郎はめげずに話しかけてくる。

「はい。あの、だから、ごめんなさい。俺、宍戸さんを祝いたくて、楽しませたくて、ここに来たのに。勝手なことばっかり…」

完璧に悪いのは俺じゃん。
勝手に拗ねて機嫌悪くして、長太郎に謝らせて…最悪だ。
なんか、もっといいこと言えないのかよ。
こんな時くらい、もっと素直に言えないのかよ。

「さっきでかい声出してごめんなさい。俺、宍戸さんのことになると頭いっぱいになっちゃって。結局、自分の都合でしか行動できなくなるみたいで…いつもいつも、後から反省するばっかりで…」

長太郎は眉を下げて笑う。

「もう少しで29日ですし、乾杯しなおしませんか…?」

プルタブの開く音がして、シュワシュワと炭酸が弾けていく。
惚れた方が負けっていう言葉があるよな。
俺は、なんだか急に、意地を張っているのが馬鹿みたいに思えてきた。

「…今日、長太郎と会えることになって、俺は嬉しかった」
「…宍戸さん?」
「明日もジローとか岳人が来てくれるけど、それよりも」
「……そ、れは…光栄です。…嘘。ホントに?宍戸さん」
「だって、今日だったら、29日になってすぐ長太郎に祝ってもらえるかなって思って。そうなったらすげぇ嬉しいなって」

長太郎が、好きだから。
やっぱりそうは言えなかったけど。

「……」
「変なこと言ってごめん。キモイよな。忘れてくれ。酔ってるんだ、俺」

もっと冗談っぽく言えば良かったか。
長太郎は返事をしてくれない。
しばらくしてテーブルに置いてあった携帯電話から着信音が響き出す。
ふと壁に掛けてある時計を見ると日付が変わっていた。
もしかしてジロー達からかもしれない。
鳴りやまないメール受信音に、俺はテーブルへ手を伸ばした。

「やめて!」

長太郎の叫び声がして、腕を掴まれ、抱きしめられた。





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