Last blue night 5 「あの、宍戸さん」 「俺、まだ飲むし。おまえ寝たけりゃ寝ろよ。心配しなくても、もう外は行かねーよ」 ムカつく。 そして悲しい。空しい。 誕生日を祝ってくれたって、心配してくれたって、それって全部、長太郎がお人好しな性格だからしてくれることなんだろ。 たぶん、他のヤツにもしてる。誰にでもできる。長太郎はそういう奴だ。誰にだって公平に優しくするんだ。 それを俺が勝手に特別だと喜んで浮かれてるだけ。 「宍戸さん」 「おやすみ、長太郎」 俺が酒をあおり始めると、長太郎は慌てたように冷蔵庫から酒を1缶持ってくる。 そして俺の隣に座り込んだ。 「俺、寝ません。まだいけます。あ、ほら、もうすぐ宍戸さんの誕生日になりますね」 「知ってるよ。だからお前来たんだろ」 そっぽを向いても、長太郎はめげずに話しかけてくる。 「はい。あの、だから、ごめんなさい。俺、宍戸さんを祝いたくて、楽しませたくて、ここに来たのに。勝手なことばっかり…」 完璧に悪いのは俺じゃん。 勝手に拗ねて機嫌悪くして、長太郎に謝らせて…最悪だ。 なんか、もっといいこと言えないのかよ。 こんな時くらい、もっと素直に言えないのかよ。 「さっきでかい声出してごめんなさい。俺、宍戸さんのことになると頭いっぱいになっちゃって。結局、自分の都合でしか行動できなくなるみたいで…いつもいつも、後から反省するばっかりで…」 長太郎は眉を下げて笑う。 「もう少しで29日ですし、乾杯しなおしませんか…?」 プルタブの開く音がして、シュワシュワと炭酸が弾けていく。 惚れた方が負けっていう言葉があるよな。 俺は、なんだか急に、意地を張っているのが馬鹿みたいに思えてきた。 「…今日、長太郎と会えることになって、俺は嬉しかった」 「…宍戸さん?」 「明日もジローとか岳人が来てくれるけど、それよりも」 「……そ、れは…光栄です。…嘘。ホントに?宍戸さん」 「だって、今日だったら、29日になってすぐ長太郎に祝ってもらえるかなって思って。そうなったらすげぇ嬉しいなって」 長太郎が、好きだから。 やっぱりそうは言えなかったけど。 「……」 「変なこと言ってごめん。キモイよな。忘れてくれ。酔ってるんだ、俺」 もっと冗談っぽく言えば良かったか。 長太郎は返事をしてくれない。 しばらくしてテーブルに置いてあった携帯電話から着信音が響き出す。 ふと壁に掛けてある時計を見ると日付が変わっていた。 もしかしてジロー達からかもしれない。 鳴りやまないメール受信音に、俺はテーブルへ手を伸ばした。 「やめて!」 長太郎の叫び声がして、腕を掴まれ、抱きしめられた。 前 次 Text | Top |