Last blue night 2 ある時、二人して浴びるように酒を飲み、冗談にキスをしたのがその始まり。 俺は酔いが覚めてもキスのことを憶えていたけど、長太郎は翌朝にはすっかり忘れてケロッとしていた。 相手が憶えていない以上、口に出してもどうにもならないし、気まずくなったり、笑い飛ばされりしたらなんて思うととても伝えられなかった。 俺はいろいろ思うことがあったんだけど、結局は胸の奥にその秘密を潜めてしまった。 ところが、それからというもの、長太郎は泥酔状態になると俺にそういう絡み方をしてくるようになったのだ。 キスは最初だけだったけど、おふざけが徐々にエスカレートしていって、今では押し倒してくる始末。 俺がいまだに女経験がないことをからかって、ヤり方を教えるだのなんだのと迫ってくる(中学時代から一緒にいるから、お互いの女関係も何もかも丸分かりなんだ。悔しいことに) そして長太郎は、俺とは逆にこの数年で大人っぽくなった。 もともと整った顔立ちしてたのがますます男らしくなって、相変わらずモテて、たまに彼女もいたりして…しかもすげー可愛い子ばっかりだ、あの野郎。 って話が逸れたけど、とにかく俺はこういう状況を望んでいないわけだ。 最近は注意してたのに、今日はつい油断してしまった…。 「ちちち長太郎コラ!待て!マジでストップ!!」 「…ふふ。やでーす」 首筋に感じる吐息が、アルコール臭くて、そして温かい。 同じくアルコールの回った俺の身体がそれに反応して熱くなった。 か、顔が熱い…。 長太郎は俺を押し倒して、そんな雰囲気だけ楽しんで遊んでるだけだ。 セックスをするわけじゃない。当り前だ、男同士なんだし。 だから落ち着けよ、俺。 「最初嫌がる素振りしても、引いちゃだめですよ。ホントは期待してるんですもん」 長太郎がへらりと笑って俺の髪を撫でる。 もちろん普段そんなふうにされたこともなくて、驚愕のあまり身体に緊張が走る。 「俺は、マジで、嫌がってんだけど」 なんとか声を出して、睨むようにして顔を上げる。 しかし長太郎は怯むどころか、虚ろな目つきから一転して得意の王子様スマイルで囁いた。 「本当に嫌がってる子はね、そんな目をしないんですよ」 確かに…。 いや納得してる場合じゃないんだけど。 でも当たってるんだ。俺は長太郎のことが好きで、それで童貞のままなんだから。 …自分で言ってて泣けてくるな。 抵抗が弱まると、長太郎はなにかしら俺に話しかけながら身体を触った。 またその手付きが鳥肌モノ。服の上からだけど、優しく、ゆっくりとした手付きで撫でられると、俺が女だったらもうこっちから抱きついてせがみたいくらい気持ちがいいっていうか、そそられるっていうか。 そんなことしたら気持ち悪がられるに決まってるし、開き直る勇気もないわけだけど。 「……し…どさ………手は……と……」 なにか教えてくれてるんだろうけど、まったく頭に入ってこない。 本当何やってんだろうな俺は。いやお前もだ長太郎。今日は俺の誕生日祝いに来たんじゃねぇのかてめえ。ていうかな、先輩をここまでからかうとかな、テニス部で培った礼儀をどこへやったんだお前は。 「…っ」 なんて意識を逸らしてもやっぱりダメで。 脇腹を滑る長太郎の手に、ついおかしな声が漏れそうになる。 頭に浮かぶ文句も、相手が酔っぱらいであるということも、だんだんどうでもよくなってくる。 …だから嫌なんだ。 これは一瞬のことで、後で夢から覚めて現実に戻って、空しくなるだけだ。 前 次 Text | Top |