◇大学生*社会人 | ナノ



Last blue night 1

明日、9月29日は俺の誕生日。
そして今日28日は、中学時代からの後輩長太郎が1日早くそれを祝いにやって来る。
同じ大学に通ってるし毎週会ってるんだけど「誕生日は特別に会いたい」だとか。
でも、実は俺はそれを聞かれるより先にジロー達と29日に会う約束をしてしまっていた。
友達の誕生日ってそんな張り切るもんか?よく分かんねぇけど、しょうがないからってことで、長太郎とは1日早く、28日に会うことになったわけだ。


日も暮れた頃、長太郎はバースデープレゼントとケーキを持って俺のアパートへ現れた。
まだ29日になってないのに自分のことじゃないのに、はしゃいで喜んで。
そうして、話も盛り上がり、酒も進んで、がっつりと酔ってしまっていた。

「そういえば、宍戸さんってまだ彼女いないですよね?」

長太郎はアルコールの回った赤い顔でニコニコ笑っている。
俺は口をぽかんと開けたまま、質問に答えられなかった。
気がつくと、テーブルの上に酎ハイの缶ばかりが空になって転がっている。
長太郎はビールは飲めない。

(いつのまに、こんな、飲んで…)

自分らしくもなく今日という日を楽しみにして、正直浮かれていたし、今この瞬間まですごく楽しい気持ちでいた。
なのにその一言で、幸福感がさぁーっと波のように引いていく。
放心してしまった俺の肩に、長太郎の腕が絡んできた。

「ほら…この前遊んだ女の子、どうなったんですか?」
「えっ?なんで知っ」
「忍足先輩から聞きましたよ。猛アタックされてたって。…なんで隠すんですかぁ?心配しましたよ〜」
「うわっ」

長太郎は悲しそうに瞳を潤ませて、そのまま俺にしがみ付いてきた。
こんな会話も続けたくないし、このままではまずい展開が予想できる。
俺は再びテーブルの上の空き缶を見て不安に苛まれた。
あ、長太郎、ワインのボトルも空けてんじゃねえか!おいおい…。
俺は意を決すると、長太郎からそっと身体を離した。

「べ、別に隠してないって。あれは、ほら。忍足が勝手に紹介してきて…遊びはしたけど、告白は断ったから…」
「本当ですか!?」
「おう…」
「じゃあ、また俺とテニスしてくれますよね?」
「おう」
「じゃあ、まだ童貞な宍戸さんに、またいいこと教えてあげますね」
「おう。えっ!?どっ…いや待て!そういうのはいい!マジで…ちょ、長太郎っ!」

あっという間に引きずりあげられて、二人分の体重を受けてベットが大きく軋む。
見上げれば、酒のせいで顔の赤い長太郎が吐息の届く距離で微笑んでいる。
やばい。もう手遅れだ、これ。
長太郎はゆっくりと左右に首を振った。

「大丈夫です」
「ダメだって…っ」

大丈夫かどうかは俺が決めるとこだろ!?
でも長太郎の顔が接近してくると、俺は反射的に目を閉じてしまう。
あぁ、今日はこうならないようにしようって気を付けてたのに。
何やってんだ、俺…。





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