こたつにみかん こたつにみかん。 宍戸さんと暮らし始めて知った、幸せな時間。 「いただきます」 オレンジ色の皮をむき、一房口に放り込む。すると口の中いっぱいにみずみずしい甘味と程よい酸味が広がった。 「おいしい」 「そ?実家でもらってきたやつなんだ。四国の知り合いが送ってくれたとか、なんとか」 「すごく甘いです」 宍戸さんは満足そうに笑みを浮かべて「俺も」と、こたつの真ん中に置かれた器から一つみかんを取った。 しかし。 うきうきと一口食べた思ったら、すぐさま眉をしかめて叫んだ。 「〜〜すっぱ!」 「え」 「すげえすっぱいじゃん、みかん!」 ムッとして唇を尖らす宍戸さん。迫られるのに合わせ、俺も慌てて後ろへ下がる。 「も、もしかして味がまばらなんですかね?たまにそういうのあります…よ、ね」 「俺のハズレかよ」 「残念でしたね…」 「別に。すっぱいのもうめーけど!」 強がりを言うも、みかんを口に運ぶ手は自棄なかんじだ。 試しに一つもらって食べたけど、やっぱり酸味がきつい。 「…俺のは甘かったんですけど…」 「……」 あー。拗ねたかな。 俺は頬をぽりぽりと掻きながら、場の雰囲気が重くなるのを感じた。 普段はみかんの味くらい、たいして気にしないのに。 部屋に二人でいる時の宍戸さんって、たまに子供みたいになる。 何回か“こういうこと”を繰り返してから、俺はこれを一種の遊びと考えるようになった。 お互いの心の中を探って、知って、理解し合う、愛情を深めるためのゲームを、宍戸さんは仕掛けてきてるということ。 そんな不器用なわがまま、可愛くてたまらないだけだ。 一人思考に耽るのをやめ、宍戸さんの手からみかんをまるごと奪った。 「宍戸さん」 「何」 「お口あーんして?」 「食べてくれんじゃねーの」 「甘やかしちゃいけませんから」 「先輩を敬ってしろって言ってんの」 「ダメ」 自分でやっておいてなんだけど、宍戸さんは恐い顔をしながらも意外にあっさり口を開けてくれた。 「そのままね」 すっぱいみかんを半分、口にくわえる。宍戸さんの眉がぴくりと動くも頬を引き寄せ、そのままキスをした。 「んん、」 舌先でみかんを押しやると、小さく吐息の漏れる音。 それでも宍戸さんはちゃんと口にみかんを含んで、唇が離れると咀嚼し始めた。 「甘い?おいしくなった?」 「……変わるわけねえだろ」 「おかしいな。料理は愛情が隠し味なんですよ」 「料理じゃねーしみかんだし」 反発してくる宍戸さんは気にせず、またみかんを一つさいて、唇に挟む。 「俺は甘くなると思います。試してみましょうね」 だらしなくなりそうな顔を引き締め、ほほ笑み返す。 宍戸さんは逃げない。 みかんはあと一つ、二つ、三つ。 ベットまで我慢出来るかな、なんて頭の隅で考え出した。 End. 前 次 Text | Top |