◇あべみは短編 | ナノ

誰にでもスキだらけ

校庭の木立も黄色や赤に色づきはじめた頃。
西浦にも学祭シーズンが到来した。
9組は劇をやるらしい。セリフのない村人役の三橋も、台本を抱えてうれしそうにしていたっけ。
ふにゃんとした笑顔を思い返していると、三橋に会いたくなってきた。
作業中断して、9組の様子見に行くかな。

廊下から中を覗くと、泉がいた。肌寒いというのに、Tシャツに学校指定の短パン姿だ。

「お。阿部」
「作業どんなかんじ?」
「今、浜田が俺達の衣装の採寸してるとこ」

言われて泉の目線を辿ると、ちょうど三橋が浜田にメジャーを当てられているところだった。

「はい三橋、次」
「う、はいっ」

肩幅の採寸。
背筋を伸ばす三橋。
三橋の肩に触れる浜田の手。

「次はバンザーイ!」
「うは」
「そのままな。こことここと…ここも、っと!」

腰回りに胸囲、ケ、ケツも計るのかよ……――!!
あ?なんか浜田の野郎、ムダに三橋に触り過ぎてねえか…?
つーかアイツもあんな露出多い格好…、制服の上からでも計れんだろ!!

「阿部…なに一人で百面相してんの…?」

泉の冷めきった声に、ハッと我に返った。

「べ、別にしてねーよ!」
「せめてこっそり嫉妬してくれよな…」
「だから、してないって!」

「あっ、あべくんっ」
「あ、三橋…」

騒いでしまったせいか、三橋が俺に気付いて駆け寄ってきた。

「おう。衣装の採寸終わったのか」
「うん!次、田島くんだ。は、浜ちゃん、じょうず なんだよっ」

心底うれしそうな、楽しそうな三橋の笑顔。
胸のあたりがチリチリと痛んだ。

「…ふーん…」
「あ…あべく…?」
「おい阿部。三橋に当たるなよ」
「んなことしないっての!!」

あ。いけね。
つい怒鳴っちまった。

「…あ…あべくん…、オレ、一人で浮かれてて、ご、ごめんね…。でも…む 村人役は、ケガするようなこと、しない、から…っ」

三橋がこの世の終わりみたいな顔をしている。
あああ、見事に勘違いしてるよコイツ…。

「〜〜三橋っ!ちょっと来い!」

まさか泉の前で正直に打ち明けるわけにもいかず、俺は三橋の手を掴んで9組の教室を出た。

確かに俺はなんにでも嫉妬しすぎる。
でも浜田は三橋の幼なじみだっていうし。ついでに田島は犬っころみたいに三橋にじゃれつくし。

(下心あんのは俺だけなんだけど、)

少しは三橋にも自己防衛を覚えてもらわないと、このままじゃ学園祭も乗り切れない。




End.





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