◇あべみは短編 | ナノ

甘い瞳に心を奪われて

三橋は中学時代のトラウマから、言いたいことも言えない性格だ。
でもその分、表情に出ている。よく顔を見れば、何を思っているのか分かる。

「三橋の顔見たら何考えてるか分かるだろ!ゲンミツに!」
「分からねえよ」

……田島はそう言うけれど、俺には怯えてるか、そうでないかくらいしか読みとれない。

「阿部ってダメダメだなー」
「……」

大笑いする田島。
クソ、おまえが凄すぎるんだっての。なんて負け犬の遠吠えかよ、俺。

三橋のこと分かってやれてないのは事実だ。
こんなに気にかけて世話を焼いてるのに、三橋は宇宙人みたいに意味不明。
だけど危なっかしいとこがまた気になって、やっぱり目が離せなくって。

「あ、三橋きた〜」
「た、田島、く……うお、あべくん、」
「…よう」

三橋は俺を見て、目を泳がせて、俯いた。
……そんなあからさまに怯えなくてもいいのによー……。

「あっ、ほらまた!三橋ダメじゃん!」
「へ、っ?」
「阿部アホだからちゃんと見せてやんないと」


"三橋の『あべくんスキ〜』って顔!"


コイツはまた何を言い出したんだ?
固まっていると、強制的に顔を上げさせられる三橋とパチリ目が合った。
三橋の目。まぶた。まつげ。眉。
どきん、と胸が跳びはねる。

「たたっ、田島くん…!」
「三橋ガンバだぜ!阿部はオレと違って鈍いから、好きなら好きって言った方がいいぞ!」
「!!」

田島の腕に抱えられた三橋が困り切っている。
しかし、意を決したように顔を上げると、頬を赤くしたままに俺を見つめた。

「う…あ…、あべ く、…す、好き…だよっ!」

やわらかな薄茶色の瞳が突き刺さる。
たどたどしい声が熱く胸を焦がす。
そのまま、時が止まったような気がした。

「阿部はっ!?」
「――えっ。…あ…うん…俺も三橋のこと…好きだよ」
「…っ!!」
「ヨシヨシ!これでまたうちのバッテリーの仲が深まったなっ!!三橋。阿部って目つき悪いけど、あんまびびんなくていいからな?三橋のこと好きなんだからな?」
「ふ、フヒッ」

田島と三橋がなにやら会話を続けていたが、俺はひとり上の空だった。
友人としての言葉だって分かってる。
でももう少しだけ、こっそり浮かれさせてくれ。




End.





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