◇あべみは短編 | ナノ

捕まえたら離さないで

「あべ、くん」

靴を履き、立って振り返ると三橋がさみしげに俯いていた。

「ん?」
「……きょう、勉強 教えてくれて、…あり、がと……」
「…おう」

三橋ってしゃべると本当素直だよな。
そんなに心の篭った言い方されると、抱き着いて頭を撫でてしまいたくなる。
当然しないけども。

「オレ、勉強ニガテだけど、あべくん すごい」
「なんで?」
「あべくん、教えてくれると……たっ、楽しい!」
「…!」
「…っだから、帰っちゃうの、さみしい」
「!!」
「ご ごめん、困ること言っ―――わっ!あべく、」

気がついたら三橋をおもいっきり抱きしめていた。
もう。なんなんだコイツ。可愛すぎる!反則だ!!

「俺も帰るの寂しいよ、三橋」
「あべ、くん…っ」

泣き顔なんて散々みてきたけど、うれしくて涙浮かべる三橋なんて初めて見た。

「う…うざいこと 言って、ごめん、ね」
「だから、今"俺も"って言ったろ?聞いてた?」
「う、うん…っ」
「おまえのことウザイなんてこれっぽっちも思ってねーの!むしろ離れるの寂しいって思ってんの!」
「うんっ…!離れる の、さみしい、ねっ」
「おう。寂しい。すっげえ寂しい」
「すっごく、さみしい、ね!」
「すんげーすんげー寂しい!」
「すっごく、すっごく、さみしいっ!」

明日になればまた会えるのに、すごく寂しい。
寂しいのに、二人して笑ってた。




End.





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