◇あべみは短編 | ナノ

繋がれた手と君の温度

二人きりの帰り道。
今日こそ手を繋ぎたいと思っていたのに、結局何もできず別れる交差点に到着してしまった。

「三橋、」

じゃあまた明日な。
いつもはここでそう言って別れる。
けど今日はやる瀬なくて。
歯がゆくて。

「三橋…」

付き合ってんのに。
大好きなのに。
なんで手を繋ぐってだけで、こんなに悩んで、緊張すんだろう。

「あ べくん」

何も言わない俺に、三橋が心配そうな顔をする。
…もういいや。明日にしよう。コイツ困ってるし。焦ってんの俺だけだしな…、うん。

「あべ、く」
「ごめん、引き留めちゃったな。なんでもない」
「う…あ、」
「晩飯しっかり食えよ」
「あ あべ、くん!」
「なに?」
「てて、て」
「え?」
「っ手!かして、ください」

三橋は俺の面前にてのひらを突き出してきた。
よく分からないながらも、渇望していたその手に引き寄せられるように、自分の手を重ね合わせる。
すると三橋はさらにぴたっとくっつけてくる。

ああ、そっか。
アレだ。


…つーか、俺の方が冷たい。


「あ、あべく、…リラックス だよ…」

三橋の手から熱がじんわり染み込んでくる。
じわじわ。じわじわ。
緊張が解けていく。

「……じゃあさ。もう少し、手、こうしてて」
「う、うんっ!」

白くてマメのある手をにぎりしめ、ぶらんと下ろす。
あったかい。
頬が赤くなってる気がして、三橋の顔は見れなかった。

くそぅ、完敗だ。

三橋って何考えてるのかさっぱり分かんねーけど、こういうふうに突拍子もなく大胆な行動が出来るからすごい。

「あべく、手 あったかく、なってきたね」
「…ありがと、三橋」
「ふへ、へ」


情けないのは今日までだ。

次は絶対、俺からする!




End.





Text | Top