ときめきに呼応する心 今日は部活後、三橋とミーティングをする。 「じゃあね、二人とも」 「おつかれ」 「じ、じゃあね、水谷くん」 他の部員達がいなくなると、部屋はシンと静まり返った。 バッテリーを組んで3ヶ月。 三橋のことはまだよく分かっていない。アイツもアイツで、いまだに俺に対してびくびくしてるし、挙動不審だし。 それでも野球は徐々に起動に乗っているからまぁいいんだけど。 ぐぅ。 考え事をしていた耳に、三橋の腹の虫が鳴った。 「あ、お、お腹…鳴った…空いた、な」 そう呟いて、手を腹へ持っていくのをなんとなく目で追ってしまう。 三橋は着替え途中で、パンツ一枚しか穿いていない。 肩冷えるから早く着ろ。一気に脱ぐな。 とか思ったのに、口からは違う言葉が出た。 「相変わらず細せぇ腹だな」 「ご、ごめん、なさい」 「おにぎり増やしたのに…ちゃんと食ってるのかよ?」 「は、いっ。今日の晩ご飯、カレー、だよ」 「は?あぁ、そうなんだ。たくさん食っとけよ」 「…フヒっ」 なんだか会話が噛み合ってなかったが、三橋はうれしそうに笑った。 俺の前じゃ滅多に笑わないから、貴重な表情だ。 無意識にホッとしてしまう。 あー、カレーのこと考えてんのかな。 幸せそうに笑っちゃって。 「阿部く、」 「ん?」 「今日、優しい、ね。…も、もっと」 ??? あ、あれ? カレーのこと考えて浮かれてたんじゃないのか? もっと、ってなんだ? ――優しい、ね。 ひかえめに弧を描く唇。 俺に優しくされたと思って、喜んだのか…? 「――!」 それから、なぜか急に白い肌が眩しく感じて、俺は今度こそ「肩冷えるから早く服着ろ!」と叫んだ。 三橋はわたわたと急ぎだした。 優しいって言われたばっかなのにまた怖い奴に逆戻りだな。 しかも、服を着ろと怒ったくせに、布に覆われていく白い肌を名残り惜しげに見つめている。 「ゆっくり着替えろよ」 「え?」 「そこまで急がなくてもいい。慌ててたら怪我するだろ」 「う、ん。……する、かな?」 「する」 「…そ、だね。俺、ゆっくり着替える、よっ」 「おー」 三橋がはにかむ。 今度は俺も何に喜んでるのか分かった。 う…ちょっと罪悪感が…って俺さっきからオカシイぞ。 疲れてるのか? End. 前 次 Text | Top |