◇あべみは短編 | ナノ

ときめきに呼応する心

今日は部活後、三橋とミーティングをする。

「じゃあね、二人とも」
「おつかれ」
「じ、じゃあね、水谷くん」

他の部員達がいなくなると、部屋はシンと静まり返った。
バッテリーを組んで3ヶ月。
三橋のことはまだよく分かっていない。アイツもアイツで、いまだに俺に対してびくびくしてるし、挙動不審だし。
それでも野球は徐々に起動に乗っているからまぁいいんだけど。


ぐぅ。


考え事をしていた耳に、三橋の腹の虫が鳴った。

「あ、お、お腹…鳴った…空いた、な」

そう呟いて、手を腹へ持っていくのをなんとなく目で追ってしまう。
三橋は着替え途中で、パンツ一枚しか穿いていない。
肩冷えるから早く着ろ。一気に脱ぐな。
とか思ったのに、口からは違う言葉が出た。

「相変わらず細せぇ腹だな」
「ご、ごめん、なさい」
「おにぎり増やしたのに…ちゃんと食ってるのかよ?」
「は、いっ。今日の晩ご飯、カレー、だよ」
「は?あぁ、そうなんだ。たくさん食っとけよ」
「…フヒっ」

なんだか会話が噛み合ってなかったが、三橋はうれしそうに笑った。
俺の前じゃ滅多に笑わないから、貴重な表情だ。
無意識にホッとしてしまう。
あー、カレーのこと考えてんのかな。
幸せそうに笑っちゃって。

「阿部く、」
「ん?」
「今日、優しい、ね。…も、もっと」


???


あ、あれ?
カレーのこと考えて浮かれてたんじゃないのか?
もっと、ってなんだ?


――優しい、ね。


ひかえめに弧を描く唇。
俺に優しくされたと思って、喜んだのか…?

「――!」

それから、なぜか急に白い肌が眩しく感じて、俺は今度こそ「肩冷えるから早く服着ろ!」と叫んだ。
三橋はわたわたと急ぎだした。
優しいって言われたばっかなのにまた怖い奴に逆戻りだな。
しかも、服を着ろと怒ったくせに、布に覆われていく白い肌を名残り惜しげに見つめている。

「ゆっくり着替えろよ」
「え?」
「そこまで急がなくてもいい。慌ててたら怪我するだろ」
「う、ん。……する、かな?」
「する」
「…そ、だね。俺、ゆっくり着替える、よっ」
「おー」

三橋がはにかむ。
今度は俺も何に喜んでるのか分かった。

う…ちょっと罪悪感が…って俺さっきからオカシイぞ。
疲れてるのか?




End.





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