◇あべみは短編 | ナノ

愛し方さえ不器用だね

大声出して、びくびくさせちまった。
いつものよくあること。
だけど今日は何回も。
なんだか噛み合わねぇ。
三橋の宇宙人並の思考回路にも、ついイライラしてしまう。

「…あべく、ごめ…」

こうなると負の連鎖。
謝られるとまたイライラして、それで、なんか…苦しい。

そうじゃない。大好きとか楽しいねとか、そう言って欲しくて、笑顔が見たくて、隣にいるのに。
男だってことがどうでもいいくらい三橋が好きなのに、今日はわけもなくイライラしてしまう。

「謝るなよ」
「ご……、うん…」

しかも俺は短気だし言い方キツイ。
でも性格なんてそんな簡単に直らねーよ。クソ、どうしたらいいんだ。

「…三橋はさ…、俺のどこが好きなの?」
「え?」
「って今はムカつくとこしか出てこないか。ビビらせてごめん」

あー、もういいや。今日はきっとそばにいない方がいいんだな。
立ち去ろうとすると、背中に三橋の声が突っ込んできた、いや三橋がマジで体当たりしてきた。

「うおっ!?」
「あああっ、あべくん!好き!だだ、大好き、だっ!」
「…は?」

な、何が起きたんだ。
よろけたものの、三橋を背中にくっつけたまま堪えた俺は、後ろを振り返った。

「なんなの、マジで!?」
「あべくん、オレに怒って、いいよっ…!!が、がまんは、ダメだ、から…っ」
「……別に三橋に怒ってないよ。今日は俺の機嫌が悪いんだ」
「じゃあ、え、えっ…ち……しません、か?」

「……はっ!!?」

今日一番でかい声で聞き返すと、三橋はひいぃと縮こまった。
意味分かんねええええ!!!!

「なんでそうなるんだよ!?」
「あ、う…はまっ…浜ちゃんが…こうする、って…」

涙ぐむ瞳が上目遣いに見上げている。
薄茶色の睫毛。
ピンク色の頬。
それでイライラがすっかり削がれた。
さらに、アホなクラスメイトの言うことを鵜呑みにするなと叱り付ければ、怒りもどこかへすっ飛んだ。
俺は三橋が大好きな自分に戻っていた。

「とりあえずキスしていい?」
「!う、んっ」
「仲直りって、こうすんだぞ。分かった?」
「うん!…ふ、ふひ」

また変なにやけ面してるし。
でも、こんな顔になぜかキュンとくるんだけどさ。


いつか、もっとでかいケンカしても、この気持ち忘れねぇようにしないとな。




End.





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