◇あべみは短編 | ナノ

無意識のゼロセンチ

そろそろ演劇の舞台である体育館への移動が始まる頃だ。
ざわめく教室の隅、リスの着ぐるみを着た三橋に俺は言った。

「写真撮ってもいい?」
「うぇっ!?」
「なにその声」
「えっ、あ…きょ 教室、の?」
「なんでそうなんだよ。三橋のだよ。あー。ほら、記念とかになるじゃん」
「き、きねんっ!そ、か!」

三橋はどんぐりを抱えつつ、片手で耳付きフードを直す。それからパッとこちらを見て「いいよ!」と背筋を伸ばした。

「じゃあ撮るぞ…」
「あっ、ま、待って!!」
「何?」
「き、記念なら…あべくんも一緒が、いい」
「え…俺も?」

記念というのは建前で、本当はリス三橋の単体ショットが欲しかったんだけど…。

「あ、あべくんと 初めてだ。学校祭……ふひっ」

…まぁ、後で撮ればいいか。三橋と一緒ってのもいいしな。

「わかった。あ、泉!一枚撮ってくれないか?」
「いいけど」

若干俺に呆れたような目を向けた泉だったが、快く引き受けてくれた。
座って撮ろう。
リス特有のふわふわで大きな尻尾も映るように。
泉に携帯電話を渡して床に座ると、三橋を手招いた。

「三橋、来て」

何の気無しにそう言った俺だったが、なぜか三橋はびっくりした顔をした。

「おい三橋?来いって。時間ねぇぞ」
「あっ、う…うん…っ。……い、いき マス!」

どこか顔を赤くして、覚悟を決めたようにそう宣言する三橋。すると次の瞬間、開いた俺の足の間に飛び込んで来た。

「おわっ!ちょ、どこ座ってんだアホ!」
「あ、ご めん」

謝りながらも三橋はぴったり身体をくっつけてくる。可愛……じゃなくて何を考えてるんだ!ここ教室だぞ!!

「バカ隣座れって!」

赤面しながらも引っぺがすと、三橋はまたごめんと言って目を潤ませ始めた。

「ど、して?…あべく、部屋いて"来い"って言ったとき、くっつかないと 怒る、からっ…だよっ…!」
「……」

泉がボソッと「サイテー」と呟く。反論の余地もない。
泉は、ぐずる三橋に近付くと、ひょいと携帯画面を見せた。
その顔はさきほどまで不機嫌そうだったのに、微笑みを湛えている。

「三橋泣くな〜。見ろ見ろ。阿部怒ってるくせにだらしない笑顔だったから。ひっでーなコレ!」


……助かった、けど……。





End.





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