無意識のゼロセンチ そろそろ演劇の舞台である体育館への移動が始まる頃だ。 ざわめく教室の隅、リスの着ぐるみを着た三橋に俺は言った。 「写真撮ってもいい?」 「うぇっ!?」 「なにその声」 「えっ、あ…きょ 教室、の?」 「なんでそうなんだよ。三橋のだよ。あー。ほら、記念とかになるじゃん」 「き、きねんっ!そ、か!」 三橋はどんぐりを抱えつつ、片手で耳付きフードを直す。それからパッとこちらを見て「いいよ!」と背筋を伸ばした。 「じゃあ撮るぞ…」 「あっ、ま、待って!!」 「何?」 「き、記念なら…あべくんも一緒が、いい」 「え…俺も?」 記念というのは建前で、本当はリス三橋の単体ショットが欲しかったんだけど…。 「あ、あべくんと 初めてだ。学校祭……ふひっ」 …まぁ、後で撮ればいいか。三橋と一緒ってのもいいしな。 「わかった。あ、泉!一枚撮ってくれないか?」 「いいけど」 若干俺に呆れたような目を向けた泉だったが、快く引き受けてくれた。 座って撮ろう。 リス特有のふわふわで大きな尻尾も映るように。 泉に携帯電話を渡して床に座ると、三橋を手招いた。 「三橋、来て」 何の気無しにそう言った俺だったが、なぜか三橋はびっくりした顔をした。 「おい三橋?来いって。時間ねぇぞ」 「あっ、う…うん…っ。……い、いき マス!」 どこか顔を赤くして、覚悟を決めたようにそう宣言する三橋。すると次の瞬間、開いた俺の足の間に飛び込んで来た。 「おわっ!ちょ、どこ座ってんだアホ!」 「あ、ご めん」 謝りながらも三橋はぴったり身体をくっつけてくる。可愛……じゃなくて何を考えてるんだ!ここ教室だぞ!! 「バカ隣座れって!」 赤面しながらも引っぺがすと、三橋はまたごめんと言って目を潤ませ始めた。 「ど、して?…あべく、部屋いて"来い"って言ったとき、くっつかないと 怒る、からっ…だよっ…!」 「……」 泉がボソッと「サイテー」と呟く。反論の余地もない。 泉は、ぐずる三橋に近付くと、ひょいと携帯画面を見せた。 その顔はさきほどまで不機嫌そうだったのに、微笑みを湛えている。 「三橋泣くな〜。見ろ見ろ。阿部怒ってるくせにだらしない笑顔だったから。ひっでーなコレ!」 ……助かった、けど……。 End. 前 次 Text | Top |