02/24:膝枕。 俺は並んでソファに座るその人を見つめた。 「思い出を作りませんか」 もうすぐ寮を出ていく宍戸さんと素敵な思い出が欲しいんです(正直数え切れないほどそんな思い出ありますけど)と言ったら、少し嫌な顔をされた。 それでも強い視線で訴えたところ、逆効果だったのか宍戸さんの眉間のしわが深くなる。 「へえ。どんな?」 鋭い目つき。低い声。怒る一歩手前みたいな顔してる。 今言っても大丈夫だろうか。 「…えっと……ひざまくら…」 「……」 「…………」 「…別にいいけど。眠たいのか?」 「え?」 「寝るから枕が必要なんだろ?寝ないならしない」 「寝ます!お願いします!」 必死な俺に若干引きつつも、宍戸さんは膝を貸してくれた。 俺はそこへゆっくり頭を乗せると約束通りに目を閉じる。 「おやすみなさい」 「おう。寝ろ」 宍戸さんは俺に膝を貸しながらテーブルにあった雑誌を読み始めた。時折、ぱらぱらとページを捲る紙の音がする。 俺も眠らないといけないんだけど…眠気なんてない。それに大好きな人の腿の感触やぬくもりに落ち着いてなんていられないし。 そんなふうに心の中でそわそわしていたら、いつのまにか宍戸さんが雑誌を読み終えてしまったようだ。 目を閉じていると時間の経過がはっきりしない。 「長太郎?」 「………」 約束した手前、とっさにタヌキ寝入りをしてしまった。 寝てなかったら怒られて膝枕も強制終了されてしまう気がする。 「…寝たのか?」 「………」 瞼の向こうから宍戸さんの視線を感じる。 まずい、ばれそうだ…。 「………ホントに寝たし。平和なヤツ」 …あれ?平気みたいだ。 ああ、よかった。 そうと分かれば俺も落ち着いてタヌキ寝入りができる。安心してすーすー言っていると、不意に宍戸さんの手が俺の頭を撫でてきた。 「…長太郎」 ……よ、呼ばれた。 「…長太郎」 びっくりするほど優しい手つきに胸の奥が熱くなる。 どうしたの。どうしたの宍戸さん?なんでそんなに優しい声なの? きっと優しい顔をしてると思うと目を開けてしまいそうになる。 「……………長太郎…………すき……」 「…………」 「…早く…早く高校、上がって来い」 寂しくないふりをする俺と、普段通りを装う宍戸さん。 それでも寂しいのはお互い分かっている。 早く嘘の夢から覚めて、甘えるふりして抱きしめたい。 前日 翌日 ちょ誕企画 | Text | Top |