◆中学生日記 | ナノ

02/15:ふたりの結末。(前半)


(※投チョコ結果文です。ちょっと長め。そして前半分のみです。何卒、何卒…)






「おっし。それじゃ一緒に一つずつ、テーブルにチョコ置いてくぜ」

俺と宍戸さんは隣り合って座り、お互いチョコレートの詰まった紙袋ラスト1つを抱えていた。
周囲は俺達の座るスペースを残してチョコレートの包みだらけだ。

「はい。…というか、もうこの時点でお互い100個超えてるんですね…すごい…」
「俺、去年は確か10個なかったくらいだぜ?」

本当に驚いたように言う宍戸さんを俺は恨めしい目つきで見た。

「…でも全部本命でしょ」
「睨むなよ。去年のことだろ。今年は義理とかも受け取っちまったからな…」
「あとは男の人からとかもね」

刺々しい言い方を続けると、呆れたような目で見られた。

「なんで怒ってんだよ。うぜえ」
「うぜ…!?し、宍戸さんだって昨日怒ってたじゃないですかー!」
「え?そうだっけ?」
「知らんぷりしないで下さいよっ。昨日、俺のこと嫉妬に任せて襲ったくせに」
「おまえが無神経だから」
「…もうなんでもいいですけどね。いつもとはまた一味違った可愛い宍戸さんも見れたし…イタッ!」
「かわいいって言うんじゃねぇ」
「すみません…」

怖い顔でそう言われて、怯えつつも切ない気持ちになる。
本当に可愛いからこう言うのに。
一昨日、3回だけ『かわいい』を許してくれたときが懐かしい…。

「よし、続き数えるぞ。準備いいか?」
「…はい」

我に返り、袋を抱え直すと俺は一つチョコの包みを掴んだ。

「んじゃ、101個ー」
「…101個…と」
「102個ー」
「102個…」






* * * * * *






「は…おまえまだあんの?」

テーブルから溢れそうなチョコレートの山。

「130、…はい。ありますよ。宍戸さんは?」
「…ある…」
「ふうん…」

お互い、相手の袋の中は見えない。
さっきからちらちら顔を伺って、腹の探り合い状態が続いている。
実は、俺のチョコはもう残り少なかった。
宍戸さんのポーカーフェイスからは余裕なのか焦っているのかも分からないけど、これはかなりの僅差だろう。
もしかしたら…負けるかもしれない。
俺が内心ハラハラドキドキしていると、宍戸さんが話しかけてきた。

「長太郎、命令決めてんの?」
「はい。決めてますよ。…決めてます?」
「ああ。だから勝負持ちかけたんだし」

何気なく聞いたその返事に一瞬、耳を疑った。

「え!!そうだったんですか…!?」
「そうじゃなきゃ勝負なんてしねぇよ。だろ?」
「はあ…」

そうだったんだ。…俺、ただの思いつきかと思ってた。
だって、たしかケンカのもつれで始まった勝負だったから。

……あれ?
でも待って。

「…それじゃ…10日も前からバレンタインのこと考えててくれたの…?」
「え?……い、や、そういうわけじゃねぇけど………いや、ゴメン。嘘。…そうだよ。…考えてた…」

宍戸さんは顔を赤くして俯いてしまった。
バレンタインと俺の誕生日を気にしてるようには全然見えなかったのに。
ああ、もう。
信じられない。
どこまで俺のこと喜ばせてくれるんだろう。
その態度ひとつひとつがどれだけ俺を嬉しがらせてるか分かっていますか。
本当に、本当に、

「宍戸さん。…好きです」
「うん……え!?…お、おう」

だからお願いを聞いて欲しい。
賭け事に頼らなきゃ頷いてくれるか不安だなんて、情けないけど。

「俺も、命令…というかお願い、どうしても聞いて欲しいです。宍戸さんに」
「それは俺もだよ」
「やっぱり負けられないです。勝ちたい」
「俺も。…なんだよ。長太郎にしては強気だな」

宍戸さんは先輩の顔をして笑った。

「数えましょう」
「ん。…じゃあ、131個目。…132個」
「133個…」

互いに数字を言って、チョコがテーブルの上に積み重なっていく。

「134個…」

宍戸さんの手が止まる様子はない。
ああ、これ…負けるかも…。
いや、弱気になってたらダメだ。

「135個…」

俺のお願い、聞いて欲しい。
お願い。お願い。
勝ちたい。
勝たせて、神様。

「136個。……ああ、くそ。やっぱ俺の負けか」
「…え?」

宍戸さんが紙袋をひっくり返すと、最後のバレンタインチョコが転がり落ちた。

「もう空っぽ。俺は136個、チョコもらったよ。おれにしちゃすごい快挙だったのにな〜」

にかりと笑う宍戸さんはうんと伸びをしてパタリと手を下ろした。

「…ほんと…?」
「ホント。…お望み通り長太郎の命令聞いてやるよ。男に二言はねぇかんな」

言いながら、勝負はもう終わったとばかりに箱を掴み、ラッピングをほどき始めた。
なおも俺が黙っているとおかしいと気付いたのか、チョコレートを一口つまみながらこちらを見てきた。

「…どうした?言えよ、命令。なんでも聞くぜ」
「俺も136個です」
「………は?…え…マジ?」

そう。
俺も136個だった。

「同じ数だなんて…」
「マジかよ?一個も残ってないのか?」
「ないです。本当に136個です」
「…まさか引き分けとはな…」

お互い、どちらかが勝つことしか考えていなかった。
予想外の事態に頭が追い付かないまま、つい黙りこくってしまう。

「…どうします?」
「…フツー1個くらい差あんだろ。同数だったら勝ちも負けもねぇよな…」
「あ、宍戸さんの命令ってなに?」
「え?」

宍戸さんは意表をつかれた顔をして、それから眉をひそめて唇を尖らせる。

「…ただ言うだけなら、言いたくねえ」
「そんなスゴイ命令…?」

俺が口元だけで笑って腰に手を回すと、宍戸さんに軽く脇を小突かれた。

「バカ。ざけんな」
「じゃあなんです?俺のよりすごいってことはないと思うんだけどなぁ」
「…おまえ何考えてんだよ……」

宍戸さんに誤解されないようににやけた顔を隠すと、さっきから思っていたことを口に出してみた。

「俺、宍戸さんの命令聞きますよ」
「は?」
「命令に従うなら、話してくれるんですよね」
「まあ…聞いてくれんなら…、けどそれじゃ勝負にならないだろ。フェアじゃねえ」
「そうですよね。…だから、俺のお願いも宍戸さんに聞いて欲しいんです」
「はあ?何、それ」
「引き分けということで決着はつかなかったけど、もともと愛の日に恋人の望みを叶えるという賭け事だったんですから、それでいいんじゃないでしょうか?愛する人に幸せになってもらうためにお互いの望みを聞いてあげるなら、バレンタインという名目もたちます。ね?宍戸さん」
「…まぁ、そうだな…」
「では、なんなりと命令を」

わざとらしく胸に手をあててその顔を覗き込む。

「なんの真似だ。…ゴシュジンサマとか言うなよ」
「あ、今言おうと思ったのに」
「お見通しなんだよ、バーカ」
「えへへ。命令は?」

促すと、宍戸さんは頭をかきながら少し戸惑った。

「命令ってか…いや、強制じゃないんだけどさ…できればっつー話で…」

口ごもって、間を埋めるようにもう一つチョコを食べる。

「いいよ。なんでも聞くよ。言って、宍戸さん」

なるべく優しさを込めて言うと、安心したように宍戸さんの口は言葉を漏らした。

「……あのさ。俺…もうすぐここ、出るだろ?」
「寮を?うん」
「それで、出ちまうけど、…おまえの声とか…急になくなると、気が抜けるんだよ」
「ほんと?うれしい。俺もだよ」
「だからさ、ここ出ても、たまに…じゃなくて、結構まぁまぁ頻繁に。声が、聞きたい。から、電話とか…かけろ」
「………毎日おはようのとおやすみのコールしてもいいってこと?」
「どっちかでいい」
「じゃ、おやすみの時間に。朝だと時間短くなっちゃいそうだし」
「うん」
「命令おわり?」
「おわり……、なんだよ、笑ってんじゃねぇよ。バカにしてんのか」
「や、ごめんなさい。あまりにもうれしくて…」

そんなの命令されなくてもするつもりでいた。
宍戸さんも同じことを望んでいてくれたなんて、喜ばずにいられない。
けれど、恥ずかしくなって機嫌の悪くなった宍戸さんはそんな俺に気付かない。



(※後半へ続く)


前日 翌日

ちょ誕企画 | Text | Top