◇sumata | ナノ

しんぱいしないで。 6


宍戸さんは二回の射精でかなり消耗したらしく、ぐったりしている。
汗の匂いのする首筋に鼻を擦りつける。俺も息が上がって、いつのまにやら汗だくだ。
でも、行為中は宍戸さんを抱きしめられなかったし、くっついていたかった。

「はぁっ、長、太郎…」

宍戸さんが、俺の背中にしがみついてくる。
愛しくて首筋にちゅっと口づけると、ますますきつく腕を締めつけられた。

「宍戸さん、好きです…」
「長太郎…」

宍戸さんの唇が近付いてきて、俺は至極幸せな気持ちで瞼を閉じた。


夢中で気付かなかったけど、ようやく俺達が身体を離した頃には授業終了五分前だった。
そんな中、俺は股間がどろどろ。宍戸さんに至っては体中がぐちゃどろだった。
あ…あれ?ちょっとお腹と太ももが汚れるだけかなと考えていたんだけど…。

宍戸さんが絶望的な顔になる。
俺はポケットのハンカチを思い出したが、そんな小さい布切れですべて拭えるはずもなく。
次は…と目を付けたのは、宍戸さんの背中に敷いていた、俺のセーター。
宍戸さんは「俺ので汚れちまう」なんて可愛いことを気にしていたけど、少々強引に身体を清めさせてもらった。

それでもやはりベトつきとアレの匂いが気になるということで、少し慌てて部室のシャワールームへ向かった宍戸さんと俺。
手を繋いで、玄関をこっそり中履きのまま駆けだした。
宍戸さんはびっくりした顔をしながらも、手を握り返してくれた。
最高に幸せな気持ちで部室の扉を開けると、中には予想外の人物が、いた。

「日吉」
「若」
「…お疲れ様ッス」

日吉はロッカーから辞書を取り出した。忘れもの…かな。
学校の屋上であんなエッチなことした直後に友人の顔を見るのも気まずいものがある。
俺と宍戸さんがもじもじしていると、

「ああ、宍戸先輩はお構いなく」

と日吉が言って、ちらりと俺を睨む。

「宍戸さん、先にシャワー浴びてて下さい」

小さな声で耳元に囁くと、宍戸さんは「じ、じゃあな、若」と叫ぶように言った。そして、そのまま右手と右足を一緒に前に出しながら、シャワールームへ入っていった。


パタン


扉が閉まった瞬間、俺ののど元に衝撃が走った。
鬼の形相をした日吉に胸倉を掴み上げられている…!

「クセェ。脇に抱えたそのセーターらしきものはなんだ?」
「ひっ!え、あっ。ちょ、ちょっと汚れて…!」
「テメェ宍戸先輩の足腰立たなくなったらダブルスで黒星つけることになんの分かってんだろうな…!?」
「あっ、大丈夫だよ!今日素股覚えたから」

「ら」のあたりで、俺の左ほほ付近が空を切り、背後のロッカーにバンッ!と音を立てて辞書が衝突していった。

「ご、ごめん…言わない約束だったね…」
「ここは部室だ。テニスするための場所だ!」
「だ、大丈夫!分かってるよ…!」

それでも不審な目を向ける日吉。
けれど、やがて黙って舌打ちし辞書を拾うと、部室を去っていった。
あれは本気の目だった…絶対ここをやらしいことに使わないでおこう…。

「……長太郎」

ハッとして見ると、宍戸さんは腰にタオルを巻いただけで、水を滴らせている。

「宍戸さん!シャワーは?」
「途中」

夢にまで見た宍戸さんの裸体にうっかり欲情しそうになったけれど、俺は宍戸さんをシャワールームへ促した。

「風邪引きますよ!俺も行くからお湯浴びてて下さい」
「おう。待ってる」

待ってる。
なんてことない言葉なのに、なんだかうれしい。
俺は汚れたセーターを適当な紙袋に入れてロッカーに押し込むと、タオルを掴んでシャワールームへ向かった。
邪魔だと嫌がられつつも同じ個室に入り、お湯を浴びる。
遠くで授業の始まりを知らせる鐘が鳴った。

「うう…ごめんな、長太郎。六限目も遅刻だ…」
「宍戸さんが謝ることじゃないですよ」
「でもおまえ、優等生だろ。俺はサボっても平気だけど」
「えっ!じゃあ、シャワー浴びたら、ここでゆっくりしましょうよ」
「…でも、おまえにフマジメなことさせんのは…」
「心配しないで?さっきも言ったじゃないですか。俺には宍戸さんより大事なものはないんです。恋人として一歩前進した今日は特別。二時間もサボるのは今日だけのわがまま。ね?」

宍戸さんは困り果てたように口を噤む。
可愛いなぁ。テニスの特訓には平気で付き合わせるのに。
なんて思いながら宍戸さんを抱きしめて「ありがとうございます」と囁いた。

そうと決まれば宍戸さんの身体を念入りに洗おう!
俺は後ろから宍戸さんにくっつくと、泡立てたスポンジを日焼けした腕に滑らせた。

「おまえ、バカだったんだな」
「えー。何ですか、急に」
「………すき」
「えっ!?」
「耳元でうっせーよ!言ってみたかっただけだ!」


それから狭い個室でぎゃあぎゃあ騒いでしまったけど、こんな校舎の外れだ。

授業時間のあいだ、俺と宍戸さんは誰にも邪魔されず、好きなだけ寄り添っていられた。




End.



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