◇sumata | ナノ

しんぱいしないで。 3


その作業を続けていくと、ようやく宍戸さんの涙の理由が理解できた。
それまで俺に好かれて優位にいた宍戸さんは、エッチして、ようやく気付いてくれたらしい。

「長太郎のことちゃんと恋人として好きだ、幸せかもしれない、って。でも一緒に、俺達いつまでこのままでいられるんだろうって…不安…感じた…」
「宍戸さん。俺だってそんな不安、いっぱい感じてきましたよ?」
「長太郎はそれでもいいんだよっ」
「ええっ」

宍戸さんはあの日、やっぱり気持ち良いと思ってくれたらしい。
それはもう俺にとっては最高に幸せなことなんだけど、でも。初体験がアナルセックスで、そのうえ射精までして、宍戸さんの胸には一気にいろんな感情――特に“不安”が押し寄せてきたみたいで。

「女みたいになりたいわけじゃねぇよ。けど、長太郎とまたしたいし、誰にもとられたくないとか、思って…どうしたらいいかわかんないってのに、おまえベタベタしてくるから。気持ちの整理つかなくて、避けた」
「…宍戸さん…」
「でもずっと避けてるわけにもいかねーし、どうしようって頭爆発しそうになってたら、さっき、長太郎……ち…“近づかない”とかっ!“あの頃に戻る”とか言うしっ…俺だけむちゃくちゃにしといて、コイツ捨てんのかよ、とか…っ」

一度収まっていた宍戸さんの涙が、また目尻に溜まり始める。
俺は焦って、セーターの袖で潤みを拭った。ポケットにハンカチがあったけれど、そんなの取り出していたら、宍戸さんの涙がこぼれてしまう。

「そんなわけないじゃないですか!それに捨てられるんなら俺の方ですよ」
「違う!長太郎はかっこいいから、すぐ彼女とかできちまうって分かってんだ…っ」
「な…っ!?」

そんな可愛い台詞を切ない声色で言う宍戸さんは何度も妄想したけれど、この世には存在しないものと思っていた。
なのに…いたんだ…なんて威力なんだ。

「おまえ、俺のクラスの女子にも人気だし…」
「そ…んなことないですよ…?」

否定したけど、宍戸さんは唇を噛んで、しがみついてくる。

「俺、先輩のままがよかった…。そしたらこんな気持ちになんなくてよかったのに」

ぐすんと泣く宍戸さんになすすべもない中、俺の頭は不謹慎ながらも瞬間沸騰していた。
やばい。俺、こんな時に、またしょうもないこと考えてる…!

「長太郎…」

思えば宍戸さんとこんなに触れ合えたの、久しぶりだった。
ギリギリのところで耐えていた俺の身体は、わなわなと震えていた。しかし初エッチを強引に遂げてしまった前科が、どうにか欲望を抑え込んでいる。
でも、宍戸さんはそんな俺を煽るような甘い声でもう一度「なぁ…」と囁いた。
く…そんな、誘うような声――ってまた俺、間違った方向に走ってるじゃないかっ。だめだ、違う。宍戸さんはわざとやってるんじゃない。我慢するんだ。

「なぁ、長太郎…」
「ななな、なんですか?」
「…た、ってる?」
「…」

うわあああ!最低だ!!こんな時に!!
と思うと同時、宍戸さんが俺の股間をぐにっと掴んできた。

「ぁっ、…すみませんっ!違うんです、これは!」

呆れたのか何も言わない宍戸さん。
…っていうか、その、手を離して欲しい…。

「俺…のせい?」
「そっ、それは、」

宍戸さんの泣き顔や可愛い発言に興奮した、なんて言えるはずもなく、俺は顔を赤くするしかなかった。
恥ずかしい。これじゃ全然反省してないと思われる。
すると、宍戸さんはいまだ涙の溜まった瞳で、不安そうに言った。

「俺に、興奮するのか?」

だから無理やり一回しちゃったっていうのになんで分からないんだろうなんでその手を離してくれないんだろう


宍戸さんが可愛くてたまらないのがいけないんだ――!!


「んぅ…!」

禁欲は数分足らずで終了した。
宍戸さんの顎を持ち上げ、唇をキスで塞いだ。

「うっ…んん、ん」

宍戸さんは苦しそうに呻いたけれど、初めての時のように逃げたりはしなかった。
そのうえ、まだ俺のものを掴んでいる指が時々びくんと力んで、性欲をかき立てていく。

「宍戸さん…」
「っ、はぁ、はぁっ」

泣いてた上にキスまでされて息の整わない宍戸さんは、俺の肩に頭を預けて、懸命に酸素を吸い込んでいる。
またその吐息が色っぽくて、腰に回した腕をぎゅっと強めた。そうしたら「あ、長太郎」なんて。

「俺が宍戸さんに興奮しないわけがないじゃないですか!全部ぜんぶ、誤解です」
「…でも、心配なんだ…。俺、おとこ、だし」

俯いて見えない顔が、きっと悲しく歪んでる。
少しでも宍戸さんが安心して、落ち着いてくれるように、優しく背中を撫でた。

「…俺も、以前は同じことで悩んでました。でも今は、どうやったら男の宍戸さんとずっと幸せでいられるか、考えて悩むよ?」
「え」

こめかみにキスをして一呼吸。

「その方が、幸せになれる気がするでしょ?難しいこともたくさんあるけど、宍戸さんより大事なものなんてないんです。だから絶対、捨てたりなんてしない。浮気もしない。距離置こうなんて言わない」
「…長太郎…」
「心配しないで。今度から、どんな悩み事もちゃんと話して下さい。俺も言うよ。不安とか、一緒になくしていきましょう?」

額、こめかみ、頬、そして目尻に。
宍戸さんの悲しい気持ちを吸い取るように、キスをしていった。

「心配しないで。大丈夫」

黙って見つめる宍戸さんに微笑みかける。と、宍戸さんが飛びついてきて、そのまま二人で床に倒れ込んだ。

「長太郎、逃げ回ったりして、ゴメン」
「…俺の方こそ。宍戸さんの気持ち無視して、酷いことしてごめんなさ、」

謝罪が終わる前に、口を塞がれた。
宍戸さんからのキス…初めてだ。それがこんなにうれしいなんて。
ああ、もう、どうにかなりそう。っていうか、どうにかしたい。

(――やばいっ!!)

ちゅう、と吸ってくる感触に唇を開きかけたけど、俺はガバッと宍戸さんを引きはがした。

「長太郎…やだ…」
「宍戸さん!分かってると思うけど、俺、やばいんですよ!?」
「ちんこが…?」
「そうで……う、あっ!…れ?」

臨戦態勢の俺のものに、硬いものがくっついた。
それはまぎれもなく、密着している宍戸さんの脚の付け根の部分で…。

「お、俺もだから……突っ込んで?」

プツンと身体のどこかで血管の切れるような音がした。
なんだろう、今日はなにかのサービスデーなのかな。
それとも俺、今日で死ぬのかな。
なんて思考があらぬところにいってるうちに、宍戸さんがカチャカチャと俺のベルトを外し始めた。



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