Moon Riverでキスして


夜中にふと起きてしまった。体はくたくたに疲れているはずなのに、どうしてか頭が冴えてきた。仕方なく瞼を薄く開く。すると、間接照明が点けっぱなしになっていて、隣に、というか半ば俺に覆いかぶさるように、長太郎が布団も掛けずに爆睡していた。重い。どうりで目が覚めたわけだ。胸に押し付けられた頭をなんとか離すと、少し上に眼鏡を掛けたままの長太郎の寝顔。この状況からするに、おそらく仕事を片付けている途中か、終わって一息つこうとしてそのまま意識を手放してしまったのだろう。冷え切った腕を退けて起き上がると、長太郎に布団を掛け直した。まったく。消灯する前に、すやすや安眠してるところ可哀相だったけど、仕事はいいのかと確認するため起こすことにした。長太郎、呼んで肩を何度か揺すると静かにその瞳が開く。仕事は終わったのかと尋ねると、はい、なんとか…、という夢うつつな台詞。それでも嘘は言わないだろうと信用して、照明のスイッチに手をのばした。するとその動作により接近した俺の腰に長太郎がしがみついてきた。そっと顔を擦り寄せ深呼吸する気配。びっくりして動きを止めると「…まぶしい」というなんとも勝手な呟きが。おまえが消し忘れたんじゃねぇか。パチンという音で月明かりのみになった寝室。すうすうと響く規則正しい吐息。腹に密着する灰色の頭を引きはがして肩まで布団を被せると眼鏡の蔓に触れた。そこで外すだけのつもりが、闇にぼんやり現れたあどけない寝顔に柄にもないことをしたくなった。『宍戸さん、おやすみ』。そう言って唇を近付けてくる甘ったるい恋人を思い出す。恥ずかしいけれど、でも、嫌いじゃない。それに今なら相手の意識もないし。形だけの逡巡をしてから、誰がなんと言おうとこの世で一番可愛らしい寝顔に労いと愛しい気持ちを込めてキスを贈った。おやすみ、長太郎。額だけでは足りなくなったのは月しか知らないこと。絶対離してやらないなんてふと思ってしまったのは、誰も知らないこと。




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