Lonely,lonely,Flower


慌ただしく人の行き交う駅のホームに一人突っ立っている。時刻は夕方6時半。気温、激寒い。居残り後の帰宅途中。雑踏が煩わしくて耳にイヤホンを引っかけ世界を遮断した。部活を引退したばかり。建前上自由を満喫してみてはいるが、本音はそろそろ物足りなくなってきた頃。週末にはジロー達を誘って押しかけてしまいそうだ。あと2分。風冷てぇ。向かいのホームへ電車が滑り込む。大音量のロックに紛れて、乗降する人のざわめき。と。そこへ不意に。間近に。消極的な、白黒の鍵盤の囁き。誰かが演奏しているなんて有り得ない、というか、俺に聞こえる訳がない。突如、脳内で再生された記憶。俺の知らない過去に留学したことのあるらしい後輩が、いつだったか俺に植え付けた音。他愛ない曲。好きなんです、と教えてくれた作曲家もどこかで聞いたことのある有名人。だから覚えていた(、けれど耳に残った)。こんな喧騒の中で思い出すなんて。ああ、うんざりする。持て余してる(、熱を)。捨ててしまいたい(、思考を)。理由なんて知らない、それでも、どうしたって特別なんだ。会いたいよ、長太郎(、今すぐに)。




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