P O O L S I D E 4
プールを挟んだ真正面に、水着姿の少年が座っている。
少年はついさっきまで泳いでいたかのように、そこにいた。
半袖のパーカーに海水パンツを履き、宍戸と同じようにつま先をプールに付けて遊ぶみたいに足を揺らす。
(――いつから、そこに――……?)
水泳部の生徒だろうか?
……いつ、そこへ現れた?
こんな夕暮れに、たった一人でここへ……?
「…!」
少年は宍戸と目が合うと微笑み、片足で大きく水をかき、水面に波を作った。
広がり続ける波紋はやがて対岸まで届く。
足に波を感じた途端、宍戸の背筋を冷たいものが一気に駆け抜けた。
少年の髪や肌は異常に白く、細められた瞳は夕闇に染まり本来の色は曖昧だった。
宍戸を見つめ微笑んではいるが何も話しかけてはこない。
音もなく水面を揺らし、笑うだけ。
得体の知れない者に笑い返すなど、とてもできなかった。
宍戸は早くその場を去ろうと慌てて腰を上げたが、焦ったためか足を滑らせてしまった。
「わっ――……!!」
大きな水飛沫の音がして、次の瞬間には水中にいた。
もがくと足に引き攣るような痛みが走り、動かせなくなってしまった。コートで走り回ったのが嘘のように身体が言うことを聞いてくれない。あんなに近くにあったはずの岸にも手が届かない。
プールの中が果てない海のように広く深く、恐ろしく感じた。
なんとか呼吸しようとした際に水を飲み、やがて酸素をすべて失った。
陸に上がることのないまま宍戸は水底へ落ちて行く。
強く後悔した。
敗北したままテニスができなくなってしまう。
まだあきらめたくない。
もう一度、――……
意識を失う寸前、何かがプールへ飛び込んだ音を聞いた気がした。
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