P O O L S I D E 3
プール際まで近づいていくと、宍戸はプール一面をもう一度確認した。
やはり誰もいない。
水底で踊る光をじっと眺めて、それからふっと力を抜くとラケットバックを放り出した。
靴も脱いでプールの縁へ腰掛ける。
疲労した足を水に付けると冷たくて心地良かった。
疲れ切っている身体も心も、それだけで回復しそうにはなかったが。
敗北のショックの次にやってきたのは、明日への不安だった。
負けた生徒が部活に居場所を失くし、辛くなり辞めていくのをたくさん見送ってきた。
例外なんていなかった。
次は確実に自分がそうなるだろう予感は宍戸をまた追い詰める。
こんなにあっさり恐怖に取り憑かれてしまうとは思いもしなかったが、自信を失くし崩れた心は簡単に持ち直せるものではなかった。
「……死んじまいてぇな……」
小さく呟いた声に、波が笑うように光って踊る。
水中でぐにゃりと歪む足を見つめていると、次第に自分の吐き出した言葉が可笑しくなってきた。
思いつきで言ってしまった。
現実逃避だ。
本気でそうする覚悟もないくせに。
三年間、どんなに辛い練習にも必死に耐えてきた。
初めは跡部をはじめとする実力者達に圧倒されたし、際立つほど才能のない宍戸を馬鹿にするような人間なんてたくさんいた。
それでも毎日毎日努力をしてきた。
それなのにたった一度負けただけですべてを悲観して諦めるなんて、馬鹿げている。
試合に一度敗れたくらいで、毎日の努力まで、築き上げた自分の居場所まで捨ててしまってもいいのか。
そんな自分自身を俺は許せるのか。
(やっぱり、明日も部活行くか。……行かなくちゃ、ダメだ)
風が吹き、水面が波を立てる。
沈めた足に震えを感じて、宍戸は俯いていた顔を上げた。
空は青から橙色に染められていく。
いつまでもここで茫然としているわけにもいかない。
立ち上がろうと片足をプールサイドにかけた宍戸は、そこですべての動きを止めてしまった。
「――え……?」
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