◆P O O L S I D E | ナノ


P O O L S I D E 2


誰かが戻ってくる前にすべてを片づけ、宍戸は部室を後にした。
最後に一度だけ振り向く。
――明日からはもう、あの場所には戻れない。
その事実が頭に重くのしかかり取り払えぬまま、宍戸はおぼつかない足取りで歩き出す。

正門から出ることは躊躇われたため、裏門から出ようと部室棟の裏へ回る。
プールを横切ろうとした宍戸はふと足を止めた。

「……」

そのまま通り過ぎようと思わなかったのは、金網の向こうから水音がしたように感じたから。
たしかに風は少し吹いていたが、気のせいだろうか。

「………」

人の気配はない。
不審に思って少し近づくと、今度ははっきりと波のさざめく音がした。
そっと足を踏み出し、プールへと歩み寄る。

「……誰もいねえじゃん」

コンクリートの階段を数段上り、金網越しに覗いた無人の海はスカイブルーに染まり、夏の日差しをきらきらと乱反射しているだけだった。

不規則に光る水面に誘われるように、さらにプールサイドへ近寄り見まわしてみる。
しかし人の影はやはりなかった。
プールには金網が張り巡らされてあり、事故が起きないよう厳重に扉にも施錠がされている。

だが、宍戸がかるく取っ手を引くと、それは簡単に開いてしまった。

今日は休日である。試合遠征から一足先に戻った宍戸以外は誰もいない。
校舎はひっそりと静まり返り、グラウンドに大きな影を落としている。
気がつくと陽が少しずつ傾き始めているようだった。





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