P O O L S I D E 1
主将のくせにシングルス3に出てくるような奴だった。
無名校だ。大した野郎じゃない。
完璧に相手を見くびっていた。
その結果がラブゲームで惨敗。
負けたのはこれが初めてのことだった。
ショックと激しい動悸に、ラケットを握りしめたままその場から動けなくなった。
審判の声にようやく我に返ったが、テニスコートを降りた宍戸を待ち構えていたのは、険しい表情の跡部だった。
「分かっているだろうな」
青い瞳と同じように冷たい声。
宍戸は返事をすることなくひとり試合会場を出て行った。
他のチームメイトの顔などまともに見られなかった。
(――……分かってる……分かっている、そんなことは……)
『一度でも負けた者は、レギュラーから降ろされる』
それは、何度自分に言い聞かせても認められない、現実だった。
学園に戻った宍戸はすぐに部室へ行き、自分のロッカーから荷物を鞄に詰め始めた。
負けた選手はレギュラーから外される――その掟は入部してすぐに先輩から教えられたことだった。
この3年間、そうしてテニス部を去って行った人間をたくさん見てきたし、いつしかそれを当然と思うようになった。
実力主義の整然とした構造。宍戸はそれに納得して、今まで戦い抜いてきたはずだった。
しかし、敗者の側になった今、それはただ、ただ残酷なだけ。
どうして。なぜ負けた?
まだやれる。自分の代わりに戦える奴なんかいない。
…今までの努力はなぜ通用しなかったのだろう。
自分は、弱いのだろうか。
「……クソ…ッ…………畜生ッ!…」
たった一人の静かな部室で、宍戸は少しだけ涙をこぼした。
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