P O O L S I D E 14
俯く宍戸に「盗み見るつもりではなかったんです」と少年は慌てて伝えた。
「格好悪ぃだろ?」
少年は首をふるふると横に振る。
「あいつに勝てたら、まだ足掻けるんじゃねえかと思ってたんだけどさ。明日で俺のテニス人生終わりらしい。せっかく命拾いさせてもらったのに…ごめんな」
少年は首をぶんぶんと横に振る。
「あの…」
「じゃあ、またな」
言葉を遮るようにして、宍戸は少年に背を向けた。
誰かと会話できるような気分じゃない。
しかし、その背中に大きな叫び声がぶつかった。
「宍戸さん!あのご友人は、あなたのことを待ってる」
ご友人。跡部のことか。あいつが俺を待っている?どうしてそうなるんだ。
「何、言ってんだよ」
「辞めちゃダメです!彼は……次の大会まで時間があるって言いました。退部届は“明日以降受け取らない”って!」
急に頭の中がすっと涼しくなったように感じた。
関東大会の日までゆうに十日以上残っている。
だけどこのまま練習量を増やしてみたって何も変わらない。
自分は強さばかり磨き上げて、弱さを知ろうとしていないから。
「とっとと覚悟決めて、次の大会までに戻って来いって言ってるんです!」
逃げて、不安ばかり募らせて、自分のテニスも見失っている現状を変えなければ。
『氷帝学園は必ず関東大会に出場する』
跡部は誓いを立てた。自分自身にだけでなく、宍戸にも。
わずかな可能性でも捨てるな。チャンスは、まだある。そう言っていたのだろうか。
「…あきらめないで…」
振り返って見た少年は、泣きそうに顔を歪ませて懇願した。
宍戸は自分の足が地面を踏みしめ、しっかりと影を落としていることを思い出したように確かめた。
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