P O O L S I D E 13
頭は空白になってしまったかのように何も考えられない。
リベンジの唯一の手段も失敗に終わってしまった。
跡部が立ち去り、ようやく宍戸が立ち上がった頃には下校時刻も過ぎていた。
部室棟へ戻った宍戸は、またあの音を聞いた。
プールの水飛沫の音。
悄然とする宍戸の意識に、ふと、あの少年の顔が浮かぶ。
そして、励ましてくれた言葉が甦った。
「あ、…し…宍戸、さん…!」
裏を覗くとまたあの少年がいる。
目線が合った瞬間、彼はのどに引っかかってしまったように自分の名前を呼んだ。
少し驚いたけれど、なぜだかたったそれだけのことで宍戸は肩の力が抜けてしまった。
「……よう」
小さく笑って、ふらふらとプールへ近寄った。
すると少年は勢いよく駆けて来て、金網にしがみつき慌てたように叫んだ。
「宍戸さん、足、引きずってるっ」
「あぁ。これ。別になんでもねえよ」
「そんな…」
土埃で汚れたポロシャツや、痣だらけの手足を見て、少年はまるで自分が怪我をしたように悲痛な顔をする。
「んなことよりさ、昨日ありがとな。今通りかかったら水の音してさ、もしかしたらアンタいるかなぁと思って覗いてみたんだよ。改めて礼言いたくてよ」
「いいんです、それは。あの、それより、怪我とか」
「こんぐらい大丈夫だって。コートで転ぶとかしょっちゅうだから」
「でも、さっきの試合……」
宍戸がはっとしたように、少年もはっと口を噤んだが、遅かった。
誰もいないと思っていたのに。
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