ミ★1st Anniversary! | ナノ
閉園時間 7


そうしてはじまった、一見「先輩と後輩のルームシェア」という奇妙な二人暮らし。

結果から言うと、最初の3ヶ月は本当にしんどかった。

予想通り長太郎は家事全般というか、まず自活というものがまるでできなかったのだ。
ほうっておけば部屋を足の踏み場もないほど散らかすわ、掃除しろとキレたらもっと被害を大きくするわ。
ゆで卵を電子レンジで作ろうとした時は本当に慌てた。
もう、これは、いろいろと諦めるしかないようだ。

積極的に惨事を起こそうとする長太郎を「おまえはそこに座っとけ」とリビングに追いやり、俺が飯の支度と掃除を頑張った。一応一人暮らししてたからな。長太郎よりはできる。

しかし「座っとけ」と言えば一瞬シュンとなったものの、開き直ったら夕飯の準備に追われる俺の周りをうろうろし始めた。
あまり慣れない料理を一生懸命やってるってのに、ふざけてエプロンの紐を解かれて、俺はとうとうブチ切れて長太郎をキッチンから追い出した。

まぁな、二人暮らしにはしゃぐ気持ちも分かるし、いきなりメシ作れなんて難しいよ。こいつピアノしかできないんだから。
けど俺がちょっとずつ躾してやれば、その内できるようにもなるだろう。

「ん?」

不安がきちんと現実となってくれて溜息をこぼすしかない俺の耳に、ピアノのメロディーが流れ込む。
完成したカレーの鍋に蓋をして火を止めると、かすかに音のする防音室の窓を覗いた。
長太郎はポロン、ポロン、と何度か鍵盤を叩くと、楽譜立ての五線譜におたまじゃくしを置いて行く。

「…てめ、俺が飯の支度してやってんのに、なに暢気なことやってんだ」

防音室の扉を開き、背後から声をかけた、のだが。

「………」
「……おいっ。長太郎!」
「えっ?あ、宍戸さん!いつのまに…」
「聞いてなかったのかよ」
「ごめんなさい。聞こえませんでした」
「おまえは耳にも防音材詰めてんのかよ」

まさか、と笑う長太郎は俺の腰を引き寄せて抱きついてきた。
エプロンに顔を埋めて、いい匂いがする、と微笑む。

「できたから、呼びにきた。盛り付けくらいは手伝えよ」
「今日の晩御飯はなんでしょう?」
「当ててみな」

長太郎はもう一度俺のエプロンに鼻をくっつけて、何度か呼吸している。
思ったより真剣に考えていてアホっぽい。
俺は口もとを隠してちょっと笑った。

「……んー、カレーの匂いがするかな……?」
「お、正解。鼻がきくな」
「わぁ。宍戸さんのカレー、楽しみです」
「あ。3日はその答えでいいから」
「…えっ?3日間もカレーですか!?」

俺だって学校あるのに、毎日飯作れるわけがないだろうが。
不満げな長太郎をギロリと睨んだ。

「文句あんならてめえはピアノでも食ってろよ」
「いや、カレー大好きです。大好き」

調子のいい奴めと思っていたのに、鍋は2日で空になった。
一緒に暮らす前から思ってたけど、長太郎は食いっぷりもいいし、なによりおいしそうに食べる(まずいときは引きつった笑顔で「おいしいです」って言うからイラッとくるが)
俺は主婦の真似事を億劫に感じながらも、ときおり料理雑誌を購入してしまっていた。


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