ミ★1st Anniversary! | ナノ
閉園時間 5
部活のない日は通い続けた、放課後の音楽室。
最初のうちはくすぐったい雰囲気になかなか慣れなかった。
「愛してる」なんてあどけない笑顔で言われた日には笑い転げてしまったこともある。長太郎は真面目に聞いて下さいとか、もう言わないからなんてよく怒ったけれど、何度も何度もしつこく繰り返して、とうとう俺にも同じことを言わせるまでになった。
「あ……愛、してる」
「…俺もだよ」
その後キスをしてきた長太郎に悪態ついて当たってやった。
恥ずかしい。自分がそんな言葉を言うなんて抵抗がある。
「なんで手が出るのかなぁ。宍戸さんは」
咎めるように言う長太郎は、それでも嬉しそうだった。
一度声に出してみれば、くすぐったくはあるが心地良い。
それにそんな幸せそうな顔をされれば、照れくさいより嬉しいという気持ちが勝つ。
好き。
愛してる。
おまえだけ。
数えきれないくらい、伝えた。
もっと伝えたいと思った。
もっと長太郎を知りたいという気持ちは大きくなるばかりだった。
けれど頭の隅には常に不安が付き纏う。
男同士なんて誰が好き好んで選ぶんだろう。
これからも広がり続ける長太郎の世界に、新しい出会いなど数えきれないほどある。
そうやって、終わりが来る日をふとした瞬間考えてしまう。
そんな自分が嫌で、でもその思考が消えないものだということも知っていた。
自分が弱いせいにはしたくない。けど、長太郎に素直になれたのはそんな不安のおかげかもしれない。
性格も趣味も何もかもが違うのに、だから俺達は関係を壊すことなく居続けられた。
放課後の音楽室で、長太郎はよくピアノを聞かせてくれたけど、以前に比べてその回数は減っていった。
他に二人きりになれる場所もできたし、もう一緒にいるための下手な口実はいらない。
俺に不評だったチェレスタという鍵盤楽器は黒い革張りのケースへと丁寧に戻されて、想いの通じたあの日から一度も開けられることはなかった。
それからの日々の鮮やかさに、俺はその名前も、どんな音色だったかもすぐに忘れてしまった。
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