ミ★1st Anniversary! | ナノ
初恋リプレイ 5
「まぁ、待ちなさい」
肩に小林の腕がするりと回る。
だから、こういうのが馴れ馴れしくて嫌なんだよ!帰国子女だかなんだか知らねーけど!
生徒へのスキンシップのつもりかもしれないけど、俺は髪とか身体とか、あまり他人に触られたくない。
内心ムカムカしていると、ポケットの携帯が振動した。なんだろう、また長太郎かな。けど、今は小林が……。
「体調が悪かったんだから謝ることはない。でも……芥川には『腹痛』って聞いたんだけどね?」
「!?」
「俺の聞き間違いかな?『腹痛』って」
肩に回っていた腕が背中をすべり降りて、腹を撫でた。全身に鳥肌が立つ。
あっ。そういえば、伝言頼んだ時、ジロー眠たそうだったよな……もしかして、寝ぼけて間違えたのか!?くっそぅ、人選ミスだ…!
「あ…い、いや、頭痛もしたけど、腹も痛くて…どっちもだったんスよね…?」
作り笑顔を向けると、小林もにっこり微笑んだ。
つーか、コイツおかしくねぇか!?どこ触ってんだよ!
さりげなく小林の手を払うと、腹を撫でていたそれは自然な動作で肩に戻ってきた。
は・な・れ・ろ・よ!
また離れようとすると、逆に俺の身体は小林の方へぐっと引き寄せられた。
そして。
「はははっ!ウソつけコラ〜!」
小林はいきなり大声で笑ったかと思うと、俺の首を脇で絞めた。
「うぐっ!?」
「宍戸ぉ、おまえバカだよなー!本当、単純で可愛いよなぁ!あはは」
「うっ……ちょ、苦し…!せんせ、ギブ!ギブギブッ!!」
さりげなく失礼なことを言った小林に怒りが湧く…が、それより呼吸ができなくて苦しいっ!
マ、マジで絞まってるって…!!言い忘れてたけど、小林は柔道部の副顧問だ。
しかし小林は暴れる俺の頭をわしわしとかき混ぜながら笑うばかりだった。
わざとか?わざとなのか!?
パサッ。
視界が白くなる。
取っ組み合う俺と小林へタオルが落ちてきた。
「離してください。宍戸さんは、ギブアップだそうです」
突然現れたセコンドの声には、なんだか聞き覚えがあった。
しかしこの場所――高等部の校舎で聞けるはずがない。
俺と小林はそのままの体勢で後ろを振り返った。
「長太郎…!?」
なんでここにいるんだ?
長太郎はつかつかとこちらへ向かってくると、なにも言わずに俺の首に絡んだ小林の手を解き、呆然とする俺を自分の後ろへ隠すようにして立った。
小林は驚いたように長太郎を見たが、すぐに食えない笑みを浮かべると、屈んでタオルを拾った。
「そのジャージ……中等部の生徒かな?あ、テニス部!」
「はい。高等部の部長に用事があって来ました」
長太郎は笑い返すことなく答える。
嫌な空気が流れているような気がするけど……気のせいか?
長太郎も初対面の先生にずいぶん愛想がない。いつもはそんなことねぇのに。
ちらちらと二人を伺っていると、小林と目が合って、微笑まれた。
「そうか。じゃあ案内してあげなさい、宍戸」
そう言って、小林は俺の首に拾ったタオルをポンと掛けた。
「行かないんだったら、そこの倉庫で資料整理を手伝ってくれ」
「案内してください、宍戸さん!!」
いきなり叫んだかと思うと、長太郎は俺の首からタオルを剥ぎ取り、俺の手を引っ掴んでスタスタと大股で歩き出した。
慌てて追いかけると背後から「宍戸!」と呼び止められる。
振り向くと小林は少し肩を揺らして笑っていた。
「おまえな、嘘吐いたり緊張して話す時、自分のうなじを撫でる癖があるぞ。覚えとけ」
「なっ…」
俺はつい赤面したが、掴まれた手首にギュッと痛みを感じて、慌ててまた前を向き、ほとんど走るようにして歩き出した。
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