ミ★1st Anniversary! | ナノ
初恋リプレイ 2
部屋で長太郎の土産話を聞いてみると、やっぱり旅行中も成長痛がひどかったということが発覚した。
だから背伸びてるって言っただろ。
と言うと「そんなことないですよ〜」と笑顔で謙遜された。いや褒めてねぇし。
「でもそれ以上に楽しかったですよ。宍戸さんとロマンチック街道歩けたら最高だったのになぁ」
「はぁ?」
ロマンチック街道ってのは、長太郎の修学旅行先のドイツの観光名所だ。
なんてネーミングだ。そんなところを男二人で歩くなんて恥ずかしすぎるだろ!
「俺は嫌だぞ」
「えー、いいじゃないですか。名前は宍戸さんの好みじゃないかもしれませんけど、とてもきれいな街並みだし」
「なおさら恥ずかしいだろ…」
「じゃあ、どこでもいいですよ?宍戸さんと一緒だったら、どこでもロマンチックになるから」
長太郎はなんともピュアな笑顔でそう呟くと、隣に座る俺の手を握った。
突然のことに一瞬肩が竦んだが、俺はそれをごまかすようにわざと大きな溜息を吐いた。
「そういうこと平気で言うとかありえねぇ〜」
だけど、昔…一年前の小さい長太郎がこう言うと、俺は柄にもなくドキッとしてた。なんか背伸びしてるような言い方がかわいくてさ。
…でも、な…今はな…。
今さらそんな背伸びは必要ねぇんだよ。普通にしてくれ。普通に。
「いいじゃないですか。本当のことなのに」
「!」
ちゅ、と頬に突然のキス。
「…おまえ…」
長太郎を睨みつけながら、俺はそっと首筋を手で押さえた。なんか、ぞわっときた。
「ダメでした?」
その大人っぽい顔で微笑まれるのもなんだか目に痛い。
無意識に腰が引けてしまう。
なんて俺の心境も知らず、長太郎はクサい台詞のあと必ずひっついてくる。
「わっ。ま、待てって!」
その度俺はアリ地獄に落ちたアリみたいにジタバタ足掻いた。けれどそれはいつも無駄な抵抗に終わる。長太郎は俺より身体が大きいし、もとより、小さな頃からけっこうな怪力だった。
「…会いたかったです」
ほんのちょっと低くなった声が切なげに訴える。
俺だって…俺だってそうだけどよ。
そうだけど、その、こんなにくっつく必要はないっていうか……
「宍戸さ…」
「こ、困るんだって!」
厚い胸板を押し返してそう叫ぶと、長太郎の動きが止まった。
俺は熱くなる自分の首筋を手のひらで隠すようにして視線を落とす。
「長太郎、帰って来たばっかりで、疲れてるだろ?お、俺も、その、勉強あるしよ…」
自分で言っていて、なんの言い訳だとツッコみたくなる。
抱きしめるくらい好きにさせればいいのに。
でも……って俺の思考も行動も気持ち悪すぎる!!なに今さら照れてんだよ!
「何が?」
「…え?」
「何が困るの?」
長太郎にくっつかれるのが困る。
……なんて言ったら嫌ってるみたいに聞こえるよな。
それは絶対ないんだけど。
その、たまにはスキンシップ自粛っていうの?してみねえ?なんてはぐらかしても、俺より頭よくてものすごくしつこい長太郎が誤魔化されないのは目に見えている。
「昨日まで俺いなかったし、いくらでも勉強できましたよね?」
「…それも、そうだけど…」
「宍戸さんを抱きしめると旅行の疲れなんか飛んじゃいます」
長い腕が身体を包みこむように抱きしめ、改めて長太郎の成長を感じる。
まるで他人のように感じるが、首筋をふわふわと掠めるくせっ毛はよく知ったもの。付き合いだした頃、小さい身体で俺にぎゅっと抱きついてきた幼い長太郎がふと甦る。
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