ミ★1st Anniversary! | ナノ
no kiss, no smoking 4


ちまちましていて鈍臭くて、可愛いと言えば可愛いけれど、胸は真っ平らだし足の付け根には同じものが付いている。
プラスな要素のほとんど見当たらないその少年がどうしてこんなに頭の中を占めているのか、いい加減に亜久津も気付いていた。
だが、せっかく腹が決まったというのに相手はいつまでたっても委縮しているし、その上キスはしたくないと言う。

「…はぁっ…、クソ、あいつの家、学校から遠いんだよ…!」

ようやく見慣れた道に出た亜久津は息を乱していた。全力といえば全力だが、いつものように走っているだけだ。しかし肺が酸素をくれと訴えている。
短い歩幅の足は、毎日のトレーニングで鍛えられていて動きだけは悪くない。

「あいつは身長以前に、持久力鍛えねえとダメだ…ッ」

またずり落ちてきたヘアバンドを額に持ち上げながら、亜久津は唾を吐く。
それと、このヘアバンドもちゃんとサイズのあったものに変えないとダメだ。
鞄を背負い直して息を整えがてら歩き始めたところで、曲がり角の向こうに聞いたことのある声を拾った。

「お、俺は用事あるんで…だよ!除けてく…除けよっ」
「なんだよつれねえなぁ。俺ら亜久津にこの前の借りを返したいって言ってるだけじゃん?付き合えって」
「今日は随分と丸腰じゃねぇか」

太一を囲んでいるのは見たことのない、もしくは見たかもしれないが覚えていない男達だった。雑魚野郎共、と言いたいところだが、今、亜久津の身体に入っているのは太一。こっちが雑魚だった。

「最悪だ…」

亜久津は思わず頭を抱えてその場にしゃがみ込みそうになる。

「や、やめてくださ…」
「いいからこっち来い。前より大人数でお礼してあげっからよ」

そういいつつ、亜久津の姿をした太一の腕を掴んだまま制服のポケットから携帯を取り出した男は、どうやら仲間を呼んでいる様子だ。
亜久津は今すぐに飛び出して行って太一を助けたかったが、この身体では相手を倒せるか不安が残った。
たった2歳違うだけで、こんなに体格差があるなんて。こんなんで生きていけんのか?と、亜久津がずれたことを考え始めているその間にも、太一は怯えて目を潤ませる。

「…んっとに鈍臭えし…っ」

亜久津は考えるのを止めた。
身体がなんだ、気持ちがどうだと他のものに当たっている場合じゃない。
好きなヤツが困っている。

「おい。その汚ねぇ手、離しやがれ!」

曲がり角を飛び出すとなるべく低い声を出してみたが、やはり怖さ半減の声が出た。

「せ、先輩!」

太一はホッとしたように亜久津を見る。

「…あ?なんだ、こいつ」

しかし、いきなり現れたやけに言葉遣いの荒い少年に男達はきょとんとした。

「どうしたの、僕?」
「お兄さんたち忙しいんだよね〜」

まさかあの亜久津だとは夢にも思わず、男達は暇つぶしに威勢のいい子をからかおうとする。

「そいつから手離せ、クソ野郎」

ヘアバンドを首まで下げ、亜久津は相手を睨みつけた。

「そんな口聞いてもいいのかよ、チビ助」
「るせぇ。俺はそいつに用あるんだよ」
「あ、おまえ…白ランってことは山吹中の生徒か?」
「おいおい亜久津〜。こんなチビっ子に助け舟出してもらってんじゃねえよ」
「ははは。ダセェ…っぐ!」

笑いながら背を仰け反る男の腹に一発決めると、亜久津はさらに隣の男の顎目掛けて鞄を振り上げた。
最後の一人には、鞄から取り出したスタンガンを目の前にかざし、脅しをかける。

「おまえらこそ誰に口聞いてんだ………ァア?」
「くそ、なんだこのチビ…!」

念のためみぞおちに一発お見舞いすると、やっぱり雑魚だった男は反抗してくることもなかった。
亜久津は急いで自分の姿をした太一に駆け寄った。

「おい、大丈夫か?」
「……亜久津先輩…っ」
「テメェはバカか。なんでアイツらと……うわっ!」

涙ぐんだ太一は小さい身体の亜久津を抱きしめた。
怖かったのだろうか。

「く、るし…、やめ、太一、」
「ぼく、僕……亜久津先輩が好きです。大好きです。別れるだなんて言わないで下さい…っ」
「は?」
「僕に言いたいことって、わか、別れ話、ですよね…、でも、でも僕、そんなの嫌です」
「……いや、俺は別れ話しようとは思っちゃ…」

亜久津が涙をこぼす三白眼を見上げた瞬間、後頭部に激痛が走り地面に崩れた。

「―――うっ、」

太一が名前を呼ぶ声がする。ぼやける視界で見上げると、さっき倒したはずの男の一人が拳を握りしめている。

「テメエら…タダで済むと思うなよ…」

腹部に蹴りが入った。まず自分を集中攻撃するらしい。

「チビのくせに生意気なんだよ!」

自分の身体ならいくら殴られたって構わない。けれど、今、亜久津は太一の身体だ。
やめろ。
やめてくれ。
コイツの身体にはなにもするな。
そう思っても喉からは呻き声しか生まれない。


意識が呑まれそうになった時、断続的に続く暴力は止まった。


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