ミ★1st Anniversary! | ナノ
no kiss, no smoking 1
長閑な公園を荒々しい足取りで歩く一人の少年がいた。
右を見ても、左を見ても穏やかな緑の景色を、隈なく見回すこと数分。時折ずり下がるヘアバンドを額に持ってくるのも面倒になった頃、ようやく池のほとりに目的の人物を見つける。
だが、その信じられない光景に彼はドスの利いた声で、
「何やってんだテメェ!」
と、怒鳴った。
……つもりだったが、変声期すら迎えていない高くて丸みを帯びた声が広葉樹の葉を優しく揺らすだけだった。
「コ、コラ!太一!」
気を取り直して再び叫ぶと、呼ばれた少年はようやく鉛筆を動かす手を止めて、がばんを跳ね上げてびっくりした。少々大袈裟過ぎる。
「わっ、わああ、亜久津先輩…っ」
太一は散らかした写生の道具を拾い集めるのも忘れて大混乱に陥っている。
モノクロの公園風景が描かれた画用紙が膝から草の上に落ちた。
「………この俺が公園で写生だと……!?」
「そのっ、これは、き、気分転換というか…ご、ごめんなさい!」
どうやら最悪の事態らしい。彼はよりにもよって山吹中最低最悪の不良、亜久津仁の姿で「池のほとりでデッサン」などというイカレタことをしてくれたようだ。
「こっちはますます気が滅入んだよドアホ!!早く片付けろ!」
「ご、ごめんなさいっ」
「謝るならすんじゃねぇよ」
「……身体が入れ替わって困ってるのは僕だけじゃないのに…勝手なこと……」
しゅんとうなだれて謝る、亜久津仁の姿をした壇太一。迫力のあるところがちょっと気に入っている白い学ランはきっちり詰め襟が締められて、いつも立てている髪はセットも何もワックスすらついていない。
気が遠くなる。
「…死にてえよ、もう…」
「せ、せんぱ、……僕……」
「もういい。とりあえず僕って言うのやめろ。敬語も話すな」
「は、はい…じゃないです、おうです」
「………。学校戻るぞ、太一」
「お、おうです」
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