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しあわせな失恋エピローグ 5


それから、予定通り。
宍戸は鳳の家に上がっていた。
雨は相変わらずしとしと降り続けている。
あの本屋から鳳邸まで移動する途中、再び一つの傘に入っていた二人だったが、あれから一言も会話をしていない。

無言で部屋に招かれ、鞄をベットに放った鳳がようやく「お茶を入れてきます」と言葉を発したのだった。
鳳の変貌っぷりに逆に宍戸は冷静に、というか、緊張状態が続いたせいか疲弊してしまった。
宍戸はベットに近づき、鳳の濡れた鞄にそっと触れた。
自分の鞄から乾いたタオルを取り出すとそれを拭く。
誰のものでもなくなった鳳が少しうれしくて、でもやっぱり鳳が荒んだ気持ちでいたり、傷ついているのは嫌だった。
いつものように笑っていて欲しい。
そのために自分はこれからどうしたらいいのだろう。
思い悩んでいると、ドアの向こうから鳳の声がした。

「宍戸さん。手が塞がっているので開けてくれませんか」
「…お、おう」

宍戸は鳳の声に若干心拍数を上げながら、ゆっくりドアを開いた。

「すみません」

うっすら笑みを浮かべた鳳に、宍戸はドアを閉めながら途方に暮れる。
なんとなく、怒った後の相手というのはどう接して良いのか分からない。これがジローや岳人なら自分も普段通りにしているところだが、直面しているのは怒っているところなんて今日初めて見たばかりの鳳なのだ。
さっぱりいい対応が浮かんでこない。どうも慎重に、様子を伺うようになっている。
目の前に出されたケーキ皿をじっと見て、宍戸はそのまま顔を上げられなくなっていた。
鳳は紅茶を注ぎながら宍戸に問いかけた。

「ミルクと砂糖は…」
「あ、頼む」
「……え?」

―――あれ?
宍戸は先ほどのことを回想していたが、ある場面でストップさせた。
浮気された後輩を慰めるにはどうしたらいいのだろうと考えていた宍戸だったが、よく考えてみれば……鳳が怒った原因は亜矢が自分を侮辱したとか、そんなようなことだった。
侮辱も何も、亜矢の言っていることは九割以上真実だ。
……これではますますどうしたらいいのか分からない。

「宍戸さん。…あの、宍戸さん?」
「えっ?」
「聞いてます…?」

すっかり考えに耽っていた宍戸は鳳が話しかけているのにようやく気が付いた。

「お、おう。なんだ、長太郎」
「ミルクと砂糖、いるんですか?」
「あっ、うん。頼むよ」

そう言うと鳳はキョトンとした顔をする。

「本当に?宍戸さん、チーズケーキはストレートティーじゃないですか」
「へ…?」

見ると宍戸の目の前の皿にはチーズケーキが乗っていた。
そのままゆっくり視線を上げれば、鳳が眉を下げて笑っている。

「なに見てたんですか?もう」

宍戸の前に澄んだ色のままの紅茶を置きながら、鳳は優しく笑うままだった。
笑っている。
ブリザードはどこへ?

「ごめんなさい。俺のせいで、宍戸さんに嫌な思いさせちゃって」
「え…?」
「彼女の言ったことは気にしないで下さい。ただの嫉妬だから」
「でも、おまえが」
「別れたのも、宍戸さんのせいじゃないんで。宍戸さんのこと消えろとか言われて、俺が許せなかっただけだから」
「……」
「それと……、」

そう言ったきり、鳳は黙ってしまう。

「それと?」

宍戸が促すと、鳳はとても小さな声で呟いた。

「…俺のこと…嫌いにならないで下さい…」
「…………はぁ……?」


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