◇いただきもの | ナノ



The contents of complications 6

ごめんねと必死に謝る友人に、彼女は笑って気にするなと言った。それよりも大丈夫だった?と労りの言葉をかければ、いつも見る笑顔で、先日の失敗談が笑い話として持ち上がる。

大学校内のカフェテリアの一席で、そんな風に友人と話している彼女の側を男子生徒の団体が通り過ぎようとしていた。


「…こんにちは。」

「え…。あっ!!」


その団体から一人、彼女に声かける人物がいた。顔を上げれば、それなりに見知った顔が彼女よりも驚いたような顔をして立っていた。


「宍戸君の…!!」

「はい。…氷帝、だったんですね。」

「そう。びっくりしたぁ…!!え、同い年?あたし三年なんだけど。」

「あ、俺二年です。」

「へぇ。」


声をかけたのは、弟が最近仲良くしている先輩。宍戸亮の兄だった。彼女は先日、この目の前にいる青年を弟の亮だと思い込み、声をかけたのだ。


「そっかそっか…こないだは本当、失礼しました。」

「いぇ、よく言われるんで。あ、こないだ弟がお邪魔したみたいで。」

「え?あぁ………いいの。何もしてないし。」

「…………。」

「…………。」




「「あのっ!!」」

「「えっ?」」


青年と声がかぶり、彼女はかなり驚いたがそれは青年も一緒だったようで。なりゆき成り行きを見守る彼女の友人と青年の友人達であろう団体が一斉に二人に集中した。


「いゃ…あの…。すいません、失礼しました。では…。」

「あ、ど、どうも。」


途端に退散の姿勢をとる青年に、彼女は軽く会釈して友人に向き直った。友人は誰?と笑みを浮かべて問いかける。弟の先輩のお兄さんと告げると、友人はイマイチ関係性が理解できなかったらしく、弟の、先輩の、と言葉を区切り整理しようとしている。

しばらくすると、友人は理解したようで氷帝って狭いねと彼女に笑いかけた。彼女もそうねとだけ返した。というより、しか返せなかった。

青年は何を言おうとしたのか。彼女はそればかりが気になった。そして、まさか自分と同じ事を聞こうとしていたのではないかと青年の驚いた表情を思い出しながら思う。

その心中の裏で、記憶のない夜の抜け落ちたはずの記憶が、寝直して再び目が覚めると思い出してしまった自分自身を彼女はひどく責めたという。




End.





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