◇いただきもの | ナノ



The contents of complications 4

それからしばらくして、長太郎はズルズルと扉伝いに腰を下ろして座り込んだ。


「ビビった…。」


布団に潜り込んでいた宍戸も、起きて座り込み、互いに盛大な溜め息を零す。長太郎はやがてゆっくりと立ち上がり、ベッドに戻ると宍戸に抱きついた。


「助かりました。」

「や、でもせっかく寝てるって事にしてくれたのに…わりぃ。」


宍戸は宥めるように長太郎の背中に手を回してポンポンと叩いてやる。二人は少し身体を離すと、互いにもの言いたげに見つめ合っう言いたい事があるが、なんとも怖くて口に出ない。


「「あの…。」」

「「…。」」


絶妙に声がかぶさり、互いに沈黙。そして向き合ったまま、顔を余所に向ける。宍戸から溜め息が漏れて、またどちらともなく視線が混じる。


「…やべぇな。コレ。」

「…バレちゃいました?よね?」


長太郎は俯いて手で顔を覆い隠す。宍戸からは重い溜め息が漏れる。


「だろうな。…裸だし。服脱ぎ散らかしてっし…。」

「…。」

「…長太郎?」


覗き込むように宍戸が顔を近づければ、長太郎は手で覆ったまま顔を背けて鼻を啜った。宍戸は怪訝な顔になる。


「お前…泣いてんのか?」


長太郎の肩が微かに震える。姉にバレてしまった事で、長太郎はすっかりパニックに陥っていた。どうしよう、どうしよう。そればかりが頭の中を駆け巡り、それによって搾り出されるように、後から後から涙が零れ落ちる。


「…ごめんなさい。」

「…ったく。泣くなよ。」

「ごめんなさい。」


宍戸は溜息を一つ零して、ベットから離れる。床に脱ぎ散らかした衣服から下着とランニングシャツを着込み、テーブルの上にあるティッシュ箱を手にベットに戻る。


「謝る事ねーから。」


ほらと、宍戸が差し出したティッシュ箱。情けなく眉を下げた長太郎は箱ごと受け取り、鼻を啜りながら一枚取り出した。涙を拭く長太郎の前に、宍戸はどかりと胡坐をかいて座り込む。


「…。」

「…。」


長太郎がチラリと宍戸を見れば、しかめっ面な顔と目が合う。それだけでまた泣きそうになった。


「長太郎。」

「…はい。」


返事をすれば、頭をクシャクシャとかき回された。突然手を伸ばされて目を瞑った長太郎が次に見たのは、穏やかな笑顔。


「なんか言われたら、正直に言おうぜ?」

「…え?」

「だってよ、好き…なのはどうしても変わらねぇしさ…。」

「…。」

「それでもし、わかってもらえたらラッキーだろ?」


宍戸さん、と小さく呟けば、長太郎は頭をやんわりと宍戸の腕に抱きこまれた。自分よりも幾分細い腕は、それでも長太郎を励ますには十分に逞しく、暖かい。目を閉じて、宍戸の体に手を回した。


「宍戸さん、好き。」


小さな相槌が宍戸の身体から響いて聞こえる。鼻をすすりながら宍戸の胸板に顔を寄せれば、鼻水はつけんなよと愉快そうに笑いながら言葉が返ってくる。

取り乱した自分に長太郎は恥ずかしさを覚えた。

姉に感づかれた事、もしかしたら姉を介して家族に知れてしまうと思った事。長太郎の中の常識が警告を上げている。


しかし安らぎにも似た温もりが宍戸から与えられたものだと思うと、また泣きなくなって、この人からは絶対離れられないと宍戸の体をそっと抱き込んだ。頭を撫でてくれる宍戸の手。それはとても優しかった。





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