◇いただきもの | ナノ



The contents of complications 3

雨の夜はまだ終わらない。裸になって幾度か二人で昇りつめた後、宍戸の身体を整えてまた二人で裸のままベッドに横たわったのが日付の変わらない夜11時。

そこから、宍戸はすんなりと長太郎の腕の中で寝息をたて始め、長太郎も見ているうちに眠りについた。


しばらくして、長太郎は暗闇の中で目を覚ました。寝起きの耳にもはっきりと聞こえる程、雨音はまだ打ち続けている。むしろ、強まったようだと雨音に混じって聞こえる遠雷で長太郎はそう判断した。

腕の中の宍戸は、未だに寝息をたてている。長太郎は起こさないようにゆっくりと空いた手を伸ばして、ベッドサイドにある小さなランプをつけた。一瞬眩しさに目を細めて、それからそっと体制を仰向けに変えて壁掛け時計を仰ぐ。

2時半。長太郎は心の中で呟くと、ふいと宍戸に顔を向ける。直ぐ側に寝息をたてる宍戸の安らかな顔。枕になっている腕をそっと曲げて肩に触れれば、宍戸は小さく唸って長太郎に自らすりよってきた。

思わず口元が緩み、宍戸の額に唇を触れさせてみる。小さくラップ音をつけて離せば、宍戸の目が静かに半分だけ空いた。


「ん…。」


様子を窺っていると、そのトロンとした瞳のまま長太郎を見るが、ランプの灯りに顔をしかめて、顔を長太郎の胸に押し付けてもじもじと動いた。


「今…何時?」

「…2時半。」


ぼそぼそと小さな声で、会話をする。うー、ふー、と宍戸の小さく吐く息が長太郎の胸にかかる。


「寝てていいですよ?」


言えば宍戸は小刻みに頭を震わせて、ゆっくりと起き上がった。寝ぼけ眼の宍戸は大きな口を開けてのんびりとあくびをする。その時、カーテンの隙間から劇的な明度の閃光が部屋中を照らす。それに間髪を入れずに雷鳴も轟く瞬間、宍戸は瞬時に肩をすくめた。光は一瞬。部屋はまた仄暗く戻る。


「…っあー。まだ雨降ってんのか?」

「はい、かなり強まってるみたいです。」


今ので完全に覚醒したらしく、宍戸の声がはっきりとした。長太郎も体を起こす。

そんな中、ふと目が合えば長太郎は微笑んで宍戸にキスをした。ゆっくりと唇を離せば、宍戸の口がぱかりと開かれた。


「…もう、やんねーからな。」

「…やりたいなんて言ってませんよ?」

「生意気。」


とか言いつつも、宍戸から長太郎の唇に噛み付くように合わせて上にのしかかってくる。なされるがままに従って、長太郎はベッドに身を沈ませた。再び、轟音に混じって稲妻が閃くが二人は今それどころではない。



はずだった。

ベッドサイドのランプが一人でに消えた。宍戸は長太郎が消したと思ったので、気にしていないが、長太郎がふと口付けをやめた。


「ん…?」

「停電したみたいです。」

「マジ?」


次の瞬間、激しく扉がノックされた。宍戸と長太郎以外には誰もいないハズの家。二人は跳ねるように扉に振り向いた。


「ちょーたろー!?ちょーたろー!!おっきてぇ!!」

「姉さん?」

「なんかー停電したみたいなのよー!!!」


扉を叩いたのはなんと姉だった。いない筈なのにどうして。長太郎の心音が一気に早くなる。


「ちょっと待って!!今行く!!」

「え?ねーちゃん?」


素早く下着を一枚履いて、宍戸に振り向くと人差し指を宍戸の口にかざした。


「宍戸さん、中に入ってて。」


宍戸はすぐに布団に潜り込んで、背中を向ける。すると姉はまた激しく扉をノックした。


「ちょーたろー?開けるよ?」

「出るから待って!!!」


部屋の中は真っ暗だが、自室なので長太郎は駆け足で扉に走り、静かに開けると、逆に勢いよく扉が押されて姉がなだれ込むように入ってきた。


「もー遅いっ。」

「わかったから部屋に戻ってよ!!」

「宍戸君は?」

「寝てるから!!静かにしてっ!!」


と、そこでベッドサイドの灯りが灯った。姉の姿が暗闇にぼんやり映る。眠たそうに蕩けた目。砕けた口調からと匂いから、長太郎は大分飲んだなと判断していれば、その姉の顔は何故かしかめられていて。


「え?あんた…はだかで何してんの?」

「え…あっ!!」


気づいた瞬間、とにかく見られたくない一心で力任せに姉の目を手のひらで覆った。


「ちょ、なぁに!?」

「え、あ…っ、見ちゃダメ!!」


手を外そうともがく姉を長太郎は必死に部屋の外に追い出そうとするが、焦っていてうまくいかない。


「おい!!ゴ、ゴキブリ!!足元!!」

「え、嘘っ!!」


後ろで宍戸が叫んだ。その言葉に気を取られた姉を、長太郎はようやく部屋から押し出すことに成功し、すぐさま締め出した。


「ちょーたろー!?」

「ホント!!ホントにいるから!!電気も戻ったから、もう寝なよ!!」

「…なにしてんのか知らないけど…ちゃんと服着て寝なさいよー?!」

「わかったからっ!!」


扉に背をついて、長太郎は自身を衝立にして叫ぶ。廊下には姉の足音。どうやらリビングにいたようで階段を降りる音も聞こえた。





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