◇いただきもの | ナノ



The contents of complications 2

明日、父は一昨日から出張で明後日まで帰ってこない。母は祖母と一緒に温泉に一泊。姉はサークルの飲み会の後そのまま友人宅に一泊。長太郎は明日午前の部活を終えれば、次の日の夕方まで部活もないので一人気ままな自由の身。

休日に家族が不在の家など滅多にない。そこに宍戸を呼ばないわけはない。告げた時のことを思い出せば、長太郎の頬は一人緩んでいく。照れ隠しのように眉間にしわを寄せ、口ごもりながらも一晩を約束してくれた宍戸は本当に、可愛かった。






「張り切ってんな。」

「え…そうですか?」

「お前がコントロールいい日は、なんか張り切ってる時なんだよ。」


部活も中盤にさしかかった辺りで、同じコートに立っていた宍戸に言われ、長太郎の頬は微かに弛む。あからさまに顔に出たので、宍戸には気持ち悪いと言われたがそんな事は気にならない。


「だって、今日は…ね。」

「ね…って…。」


宍戸は長太郎の言わんとする言葉に気づいたらしい。顔を背けて、しかめっ面になる。


「…のぼせてんなよ。」


宍戸のほんのり赤い膨れっ面に、長太郎の顔は緩みっ放しである。部活、頑張りましょうねと言ってはみるが、ハイハイと素っ気なく返されるだけだった。



調子の良いまま部活は終わり、長太郎は帰り着くなりいそいそとシャワーを浴びて、それなりにリビングや自室を片付ければ、後は最愛の人が来るのを待つばかり。

外は予報通り雨が降っていた。一度家に戻った宍戸は5時過ぎにやってくる。予定時刻まで、あと15分。

そこで丁度、玄関のチャイムが聴こえた。長太郎は犬のようにピクリと動くと、ほぼ全力疾走で玄関まで走って行く。今日は早かったなぁと満面の笑みで施錠を外して扉を開けた。


「いらっしゃぁ…………。」

「ただいま〜。笑顔でお迎えご苦労!!」


長太郎の笑顔は固まる。開けた先にいたのは、なんと友人宅に泊まる予定の姉だった。


「なぁんだ…忘れ物?」


一気に気持ちが萎えた瞬間、これまた長太郎はギョッとした。姉の後ろには、気まずそうに手を上げる宍戸がいた。


「し、宍戸さん…!!!」

「車置きに戻ってたら、見かけてね。雨降りだしたから拾ってきちゃった。」

「…よう。」

「あぁ、そう。宍戸さん、どうぞ。」


姉をスルーした長太郎は、玄関に宍戸を招き入れようとする。慌てたように宍戸が玄関に歩み寄ろうとすれば、宍戸の行く手を姉は阻んだ。


「…姉さん?」

「言うこと、あるでしょ?」

「…ありがとう。」


長太郎のその一言に、姉は笑顔を浮かべると、阻んでいた手をどかした。


「ったく、気持ち悪いくらい宍戸君が好きねぇ?宍戸君、あんまり近寄ると襲われちゃうかもよ。」

「な、何言ってんの!?」

「長太郎…ムキになりすぎっ!!じゃぁ、行くわ。宍戸君またね。」

「ありがとうございました。」


宍戸は頭を下げる。その様子に満足したのか、宍戸に微笑みかけて姉は傘を差して玄関の軒から出て行った。

長太郎は扉を閉めて、施錠する。先に上がった宍戸に振り向くと、愉快そうに宍戸は顔をほころばせていた。


「宍戸さん?」

「お前のねーちゃん、面白いな。」

「全っ然ですよ。というか、あんな姉ですいません。」

「いいじゃん?美人だし、面白いし。俺は好きだぜ?」

「宍戸さん!?」

「おっと、近寄んなー。」

「な…。」


慌てる長太郎に、宍戸は笑いながら先にあがらせてもらうぜと長太郎の自室に向かって階段を駆け上がった。その軽い身のこなしに、長太郎は大いに溜め息をつくが、宍戸を追いかけて長太郎も階段に足をかけた。


「強まってきたな…。」


長太郎が部屋に入ると、宍戸は電気もつけずにベッドに乗り上げてカーテンを捲り、窓の外を眺めていた。長太郎が声をかけると、宍戸は玄関先で浮かべたような顔をして振り向いた。


「雨に濡れなくてよかったです。」

「ねーちゃんのお陰、だな。」


宍戸は、長太郎は姉の話を出されるのがどうも苦手だと理解したらしい。からかうネタを手に入れた宍戸はとても楽しそうだった。


「…ですね。もうっ!!姉さんの話はおしまい!!」

「ははっ…また今度な。」

「今度なんてないです!!」


怒る長太郎の姿に笑いながら、宍戸はベッドに足を下ろして腰掛けた。ベッドに後ろ手に身体を支え、それから長太郎をじっと見つめる視線に、長太郎は口を閉ざす。

外の光がまだ明るい部屋。二人の耳に聴こえてくるのは、屋根を打つ雨音。壁掛けの時計の針の音。長太郎は近づくと、宍戸の肩にそっと手を置く。それから片膝をベッドに乗せてゆっくりと宍戸の体を押し倒した。

体は抵抗なく、すんなりとベッドに倒れ込む。。


「怒ったか?」

「はい。」


宍戸だけに響くように、小さな声で返事をすれば、組み敷いた宍戸はふっと笑う。それから宍戸の手が伸びてきて、長太郎の頬を撫でて襟足を弄んだ。くすぐったさに、長太郎は首をすくめて口元が笑う。

外は厚い雲のせいで大分くらいが、まだ六時にもなっていない。くすぐる手に長太郎は頭をすりよせる。


「まだ、時間早いですよ?」

「…いいじゃん?たまには?」


誘った時はすごい照れてたくせに、こんな場面で挑発的なのはずるいと長太郎は思う。穏やかな眼差し、余裕のある口元の微笑。初めてではないから、わかる。こうなったら宍戸はかなり寛大だ。

長太郎は完全に宍戸に覆い被さる。ベッドに肘を突き、両手で宍戸の髪を額から長頭部にゆっくりと撫で付ければ、背中に手が添えられた。


興奮する。


「…嬉しい。」





囁けば、それが合図。


弱まりつつある光に浮かぶ、宍戸の身体の美しい陰影。胸が呼吸で動く度、声を上げて首が仰け反る度に、長太郎は宍戸を揺さぶる度に溺れていくのがわかる。


雨音に交じる心音、嘆声。
この日に聞いた声の中で、一番高い声を上げる宍戸を見下ろして、長太郎は凄まじい幸福感に満たされた。





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