◇いただきもの | ナノ



The contents of complications 1

「あら…?」

「…はい?」


大学からバイトに向かう途中、彼は時間潰しに書店に立ち寄った。そこで雑誌を眺めていたら、明らかに彼を見て声を上げた人物がいた。

そこの陳列棚で立ち読みをしていたのは彼以外誰もいない。顔をそちらに向ければ、見知らぬ美女が笑顔で彼の顔を見ている。

フワフワの栗色のミディアムヘアー。スラッとした長身。賢そうで、溌剌とした印象での彫りの深い顔立ち。

こんな美女、どっかで会ったかなと思わず凝視すれば、美女の笑顔はたちまちぎこちなくなってきた。


「宍戸君…だよね?鳳長太郎の姉です。」

「え?………あぁ!!」


確かに自分は宍戸だがと思いながら、その後の美女のセリフでようやく彼は理解した。


「鳳君の!…あー…俺、亮の兄です。」


そう名乗れば、今度は美女が彼の顔を凝視する。気付いたらしく、咄嗟に手を口元に添えて目を大きく見開いた。


「お兄さん!?…ごめんなさい!!」

「あー…まぁ、似てますから…。」


彼には五つ下の中学生の弟がいる。その弟が最近よく家に連れてくる背の高い、爽やかな後輩がいる。それが、鳳長太郎。目の前の美女はその鳳長太郎の姉らしい。言われて見れば、似ていないこともないなとうろ覚えな鳳長太郎の顔を懸命に思い出してみた。


「いつも、うちの弟がお世話になってます。」

「いえ、此方こそ。」


深々と頭を下げる美女につられて、彼も思わず頭を下げた。それ以上、特に会話が思いつかない彼だったが、美女は頭をあげると、では失礼しますと軽く会釈して去って行った。

美女と形容する程、鳳長太郎の姉は美しかった。去る姿も背筋を伸ばしてしっかり歩く姿は凛々しく、スラリと伸びた足は日本人離れしている。

弟である鳳長太郎も中学生とは思えぬ体躯と綺麗な顔をしていたなとぼんやり思いながら、雑誌に目を戻した所で、彼ははっとした。

彼の中で思い出したもの。弟に対しての小さな葛藤。だからってあの人が知るわけないだろ。と、小さな悩みを強引に頭から払拭しながら、彼はため息を一つ漏らし、雑誌を閉じて陳列棚に戻してその場を離れた。






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