好きだから 1 夕陽が射し込んでくる教室で、宍戸は人を待っている。 仕事忙しいって言ってたからな・・・。 宍戸のいる教室からは学校専用の駐車場が見える。 そこに待ち人の車はなかった。 内心では、もう来ているのではないかと少し期待していた。 宍戸はため息をつき、駐車場で待っていようかなと考えていると、急に誰かがのしかかってきた。 「え!?」 「だーれだ?」 宍戸が驚いて声を出したまま固まっていると、後ろから間延びした声が聞こえてきた。 思わずため息が出る。 「はあ。目隠ししてねぇのに何言ってんだよ、長太郎」 髪見えてるし。バレバレだぜ?と言いながら後ろを向く。 そこには宍戸の言った通り、鳳がいた。 ダークグレイのスーツに身を包み、仕事や運転の時に使う銀縁眼鏡をかけている。 その様はどこかの有名会社のエリートのようだ。(実際は優秀な弁護士である) ただ残念な事に、今は顔面崩壊中である。 普段の仕事中では期待を裏切らない凛々しさなのだが、宍戸を前にするとこれ以上緩まないだろう、という位頬を緩ませ、ニコニコするのだ。 「愛の力で分かったんですね?さすがです!!」 「お前、人の話聞いてた?」 頬擦りをしながら言ってくる鳳に、宍戸は呆れる。 これで10歳年上なんだよなあ。 こんな事されると信じらんねーし。 鳳の好きにさせながら、こんな事を宍戸は思っていた。 「あ。遅くなってごめんね、亮くん。もう少し早く来れるはずだったんですけど、急にお客さんが来て・・・」 「別に。気にしてねーよ。そういえば、車どうしたんだ?駐車場に無かったけど」 宍戸は頬擦りを止めさせながら尋ねる。 「ああ。亮くんがいつもあんな高級車で来るなって言うんで、違う車にしたんですよ」 「・・・買ったって事か?新しく」 「そうですよ」 さも当たり前のように言う鳳に、本日何度目かのため息をついた。 「どうかしましたか?」 宍戸のため息を聞き、鳳は不思議そうに尋ねる。 「いや、何でもねぇ」 何か言った所で鳳はあっけらかんとしているだろうと思い、宍戸は何も言わなかった。 ふいに鳳の笑い声がしたので、宍戸は顔を上げた。 「?なんだよ」 「いえ。俺の車を探しながら待っててくれたんだなぁって思うと、嬉しくて。ずっと俺の事考えてくれてたんでしょう?」 鳳は顔を傾げながら言う。 尻尾がついていたら、振り切れんばかりな勢いなのだろう。 「ばっ!な、何言ってんだよ。ちげーし!!」 「違うんですか?」 「そ、外で待ってんの寒いから、長太郎の車が来たら降りようと思ってて・・・。それで・・・あの・・・」 宍戸は面白い位慌てて鳳の言葉を否定する。 そんな宍戸を可愛いなあと眺めながら、鳳の笑みはますます深くなっていく。 「うん。だから、俺の事考えててくれたんでしょう?」 「ち、違う・・・。そうじゃなくて・・・」 宍戸は顔を真っ赤にさせながら、なおも否定する。 その姿を見た鳳は、下半身にヒットした。 27歳。宍戸にたまにおっさんと言われようが、まだまだ若いのだ。むしろ鳳はそこら辺の学生以上に元気だと思っている。 今度は鳳がため息をついた。 「はあ。そんな顔、他の人に見せないで下さいね」 「ん?何か言っ・・・」 宍戸が顔を上げると、急に口付けられた。 前 次 Text | Top |