◇いただきもの | ナノ



好きだから 1

夕陽が射し込んでくる教室で、宍戸は人を待っている。

仕事忙しいって言ってたからな・・・。

宍戸のいる教室からは学校専用の駐車場が見える。
そこに待ち人の車はなかった。
内心では、もう来ているのではないかと少し期待していた。
宍戸はため息をつき、駐車場で待っていようかなと考えていると、急に誰かがのしかかってきた。

「え!?」
「だーれだ?」

宍戸が驚いて声を出したまま固まっていると、後ろから間延びした声が聞こえてきた。
思わずため息が出る。

「はあ。目隠ししてねぇのに何言ってんだよ、長太郎」

髪見えてるし。バレバレだぜ?と言いながら後ろを向く。
そこには宍戸の言った通り、鳳がいた。
ダークグレイのスーツに身を包み、仕事や運転の時に使う銀縁眼鏡をかけている。
その様はどこかの有名会社のエリートのようだ。(実際は優秀な弁護士である)
ただ残念な事に、今は顔面崩壊中である。
普段の仕事中では期待を裏切らない凛々しさなのだが、宍戸を前にするとこれ以上緩まないだろう、という位頬を緩ませ、ニコニコするのだ。

「愛の力で分かったんですね?さすがです!!」
「お前、人の話聞いてた?」

頬擦りをしながら言ってくる鳳に、宍戸は呆れる。

これで10歳年上なんだよなあ。
こんな事されると信じらんねーし。

鳳の好きにさせながら、こんな事を宍戸は思っていた。

「あ。遅くなってごめんね、亮くん。もう少し早く来れるはずだったんですけど、急にお客さんが来て・・・」
「別に。気にしてねーよ。そういえば、車どうしたんだ?駐車場に無かったけど」

宍戸は頬擦りを止めさせながら尋ねる。

「ああ。亮くんがいつもあんな高級車で来るなって言うんで、違う車にしたんですよ」
「・・・買ったって事か?新しく」
「そうですよ」

さも当たり前のように言う鳳に、本日何度目かのため息をついた。

「どうかしましたか?」

宍戸のため息を聞き、鳳は不思議そうに尋ねる。

「いや、何でもねぇ」

何か言った所で鳳はあっけらかんとしているだろうと思い、宍戸は何も言わなかった。
ふいに鳳の笑い声がしたので、宍戸は顔を上げた。

「?なんだよ」
「いえ。俺の車を探しながら待っててくれたんだなぁって思うと、嬉しくて。ずっと俺の事考えてくれてたんでしょう?」

鳳は顔を傾げながら言う。
尻尾がついていたら、振り切れんばかりな勢いなのだろう。

「ばっ!な、何言ってんだよ。ちげーし!!」
「違うんですか?」
「そ、外で待ってんの寒いから、長太郎の車が来たら降りようと思ってて・・・。それで・・・あの・・・」

宍戸は面白い位慌てて鳳の言葉を否定する。
そんな宍戸を可愛いなあと眺めながら、鳳の笑みはますます深くなっていく。

「うん。だから、俺の事考えててくれたんでしょう?」
「ち、違う・・・。そうじゃなくて・・・」

宍戸は顔を真っ赤にさせながら、なおも否定する。
その姿を見た鳳は、下半身にヒットした。
27歳。宍戸にたまにおっさんと言われようが、まだまだ若いのだ。むしろ鳳はそこら辺の学生以上に元気だと思っている。
今度は鳳がため息をついた。

「はあ。そんな顔、他の人に見せないで下さいね」
「ん?何か言っ・・・」

宍戸が顔を上げると、急に口付けられた。





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