◇いただきもの | ナノ



月の下に二つの影 7

「何だよ、ボーっとして…嫌だったのか??」


シン…と静まり返った部室で、宍戸さんは低い声でそう尋ねてきた。

それに驚いた俺は、ガバッと顔を上げる。


「ま、まさか…!!」

「だったら、そんな顔すんなよ…」

「ごめんなさい…その、ビックリしちゃって…」

「ふぅん…」


宍戸さんは相槌をうつと、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

怒らせてしまったのかと思って、彼の肩に手を触れようとした瞬間、赤い耳が目に入る。


(もしかして、恥ずかしいのを、隠そうとしてたのかな…)


ぼんやりとそんなことを考えると、勝手に口元が緩んできた。

動揺してるのは俺だけでは無いことに、ホッとしたんだ。

それと同時に、そのかわいらしい態度に、愛しさが溢れる。

そして俺は、ふっと微笑むと、彼の肩を掴んだ。


「宍戸さん、」

「何だよ…っえ!?」


宍戸さんが振り向こうとした瞬間に、ぐいっと自分の方に引き寄せ、倒れ込んできた彼を腕の中に閉じ込める。

そういえば、こうやって、宍戸さんを抱きしめること自体、数えられるほどしかしたことないな…

そんなことを考えていると、腕の中で彼がもがいているのが分かった。


「ちょ、長太郎…離せよっ」

「嫌ですよ、せっかく宍戸さんが嬉しいことしてくれたんですから…」

「嬉しい…こと??」


俺の言葉に反応して、宍戸さんがピタッと動きを止める。

それを良いことに俺は、宍戸さんの肩に顔を埋めた。

さっき嗅いだ匂いが傍にあるだけで、どこか安心してしまう…


「だって…俺ずっと、宍戸さんと恋人らしいことしてみたかったんです…」

「…え、」

「手繋いだりだとか、デートしたり、さっきみたいにキスしたり…それに、それ以上のことだってしてみたい…」

「…っ」

「でも、怖かったんです…全然先輩と後輩の関係から抜け出せなくて、もし宍戸さんに拒絶されたらって思うと、何も出来なかった…」

「ちょう、たろ…」

「…宍戸さんは、こんな情けないやつ嫌い??彼氏失格…ですか??」


一気に言いたいことを言うだけ言って、俺は宍戸さんをギュッと抱きしめたまま、黙り込んだ。

腕の中のこの人がどう思ったか、なんて分からない…

でも、どうしても嫌われたくなかった。



──俺…こんなに宍戸さんのことが好きだったんだ…





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