月の下に二つの影 7 「何だよ、ボーっとして…嫌だったのか??」 シン…と静まり返った部室で、宍戸さんは低い声でそう尋ねてきた。 それに驚いた俺は、ガバッと顔を上げる。 「ま、まさか…!!」 「だったら、そんな顔すんなよ…」 「ごめんなさい…その、ビックリしちゃって…」 「ふぅん…」 宍戸さんは相槌をうつと、ぷいっとそっぽを向いてしまった。 怒らせてしまったのかと思って、彼の肩に手を触れようとした瞬間、赤い耳が目に入る。 (もしかして、恥ずかしいのを、隠そうとしてたのかな…) ぼんやりとそんなことを考えると、勝手に口元が緩んできた。 動揺してるのは俺だけでは無いことに、ホッとしたんだ。 それと同時に、そのかわいらしい態度に、愛しさが溢れる。 そして俺は、ふっと微笑むと、彼の肩を掴んだ。 「宍戸さん、」 「何だよ…っえ!?」 宍戸さんが振り向こうとした瞬間に、ぐいっと自分の方に引き寄せ、倒れ込んできた彼を腕の中に閉じ込める。 そういえば、こうやって、宍戸さんを抱きしめること自体、数えられるほどしかしたことないな… そんなことを考えていると、腕の中で彼がもがいているのが分かった。 「ちょ、長太郎…離せよっ」 「嫌ですよ、せっかく宍戸さんが嬉しいことしてくれたんですから…」 「嬉しい…こと??」 俺の言葉に反応して、宍戸さんがピタッと動きを止める。 それを良いことに俺は、宍戸さんの肩に顔を埋めた。 さっき嗅いだ匂いが傍にあるだけで、どこか安心してしまう… 「だって…俺ずっと、宍戸さんと恋人らしいことしてみたかったんです…」 「…え、」 「手繋いだりだとか、デートしたり、さっきみたいにキスしたり…それに、それ以上のことだってしてみたい…」 「…っ」 「でも、怖かったんです…全然先輩と後輩の関係から抜け出せなくて、もし宍戸さんに拒絶されたらって思うと、何も出来なかった…」 「ちょう、たろ…」 「…宍戸さんは、こんな情けないやつ嫌い??彼氏失格…ですか??」 一気に言いたいことを言うだけ言って、俺は宍戸さんをギュッと抱きしめたまま、黙り込んだ。 腕の中のこの人がどう思ったか、なんて分からない… でも、どうしても嫌われたくなかった。 ──俺…こんなに宍戸さんのことが好きだったんだ… 前 次 Text | Top |