◇いただきもの | ナノ



月の下に二つの影 4

全てのネットとボールを片付け終わった頃には、沈みかけていた夕日もとっくに姿を消し、辺りは暗闇に包まれていた。

宍戸さん帰っちゃったかな…

そう考えると、悲しい気持ちになって、重い足を引きずりながら部室に戻る。

でも、そこはまだ、明かりが着いたままで、微かな話し声が漏れていた。


(待っててくれたんだ…!!)


嬉しくなった俺は、勢いよくドアを開けようとドアノブに手をかけ、そのまま固まってしまう。

中から聞こえる話し声の中に、俺の名前が出てきたから、つい様子を伺ってしまったんだ。

宍戸さん、誰と話してるんだろ…


「…それでさ、もう二週間経つのに、あいつ何もしてこないんだぜ!?何回も二人っきりになってるっていうのに。」

「そうか…」

「おい、跡部聞いてんのかよ??」

「聞いてる、聞いてる。」

「何流そうとしてんだ、人が真剣に悩んでんのに、信じらんねぇ。」

「あーん??俺様は、てめぇと違って忙しいんだ、その悩みは本人に言え、本人に。」

「直接言えねぇから悩んでんだろ、それくらい察しろって。」

「知らねぇな、俺様は帰るぜ。」

「ひっでぇ、見捨てる気かよ。」

「そうだ、自分で何とかするんだな。」

「っ…」


一瞬部室の中が静まり返った。

どうやら、宍戸さんは跡部先輩と話してるみたいだ。

その内容は聞こえたけど、よく分からなかった。

宍戸さん、悩みなんてあったのか…

でも、恋人である俺よりも先に、跡部先輩へ相談したんだ…俺には言えないことなのかな…

悶々とそんなことを考えていると、突然目の前のドアが開いた。

あ、と俺が声を漏らすのと同時に、目の前の跡部先輩も驚いたように目を見開く。


「先輩…あの、お久しぶりです。」

「…あぁ、久しぶりだな。」


咄嗟に出てきたのは、挨拶の言葉だった。

こういう時、上下関係というものを叩き込まれていて良かったと思う。

そうじゃ無かったら、何を口走っていたか分からないし…


「今お帰りですか??」

「そうだ。…鳳、」

「はい、何ですか??」

「もう少しちゃんと宍戸と話すんだな、あいつが五月蝿くてたまらねぇ。」

「え、あ…すみません。」


正直、どうしてその時謝ったのか分からないけど、跡部先輩が俺達の関係を気にしてくれているのが、嬉しかった。

やっぱり、この人は、不器用だけど…すごく優しい。

そういうところは、宍戸さんとよく似ていると思う。

きっと二人は、同じように不器用な面を持ち合わせているからこそ、反発するし、分かり合えたりもするんだ。

──うらやましい、俺ももっと宍戸さんと深い関係になりたい…

その時、素直にそう思った。


「じゃあな。」

「はい、さようなら…」


ふっと笑って挨拶をしてくる先輩に、慌てて返事を返すと、跡部先輩は俺の横を摺り抜けて、外へ出ていく。

それを見送ってから、静かにドアを閉めた。

──パタン…と部室内に音が響く。


そして、中を軽く見渡すと、ソファーにもたれ掛かって座る宍戸さんが目に入った。

彼は、俺とは違う方向を見ているから、視線が交わらない。

まるで避けられているような気になって、ズキンと胸が痛んだ。





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