月の下に二つの影 4 全てのネットとボールを片付け終わった頃には、沈みかけていた夕日もとっくに姿を消し、辺りは暗闇に包まれていた。 宍戸さん帰っちゃったかな… そう考えると、悲しい気持ちになって、重い足を引きずりながら部室に戻る。 でも、そこはまだ、明かりが着いたままで、微かな話し声が漏れていた。 (待っててくれたんだ…!!) 嬉しくなった俺は、勢いよくドアを開けようとドアノブに手をかけ、そのまま固まってしまう。 中から聞こえる話し声の中に、俺の名前が出てきたから、つい様子を伺ってしまったんだ。 宍戸さん、誰と話してるんだろ… 「…それでさ、もう二週間経つのに、あいつ何もしてこないんだぜ!?何回も二人っきりになってるっていうのに。」 「そうか…」 「おい、跡部聞いてんのかよ??」 「聞いてる、聞いてる。」 「何流そうとしてんだ、人が真剣に悩んでんのに、信じらんねぇ。」 「あーん??俺様は、てめぇと違って忙しいんだ、その悩みは本人に言え、本人に。」 「直接言えねぇから悩んでんだろ、それくらい察しろって。」 「知らねぇな、俺様は帰るぜ。」 「ひっでぇ、見捨てる気かよ。」 「そうだ、自分で何とかするんだな。」 「っ…」 一瞬部室の中が静まり返った。 どうやら、宍戸さんは跡部先輩と話してるみたいだ。 その内容は聞こえたけど、よく分からなかった。 宍戸さん、悩みなんてあったのか… でも、恋人である俺よりも先に、跡部先輩へ相談したんだ…俺には言えないことなのかな… 悶々とそんなことを考えていると、突然目の前のドアが開いた。 あ、と俺が声を漏らすのと同時に、目の前の跡部先輩も驚いたように目を見開く。 「先輩…あの、お久しぶりです。」 「…あぁ、久しぶりだな。」 咄嗟に出てきたのは、挨拶の言葉だった。 こういう時、上下関係というものを叩き込まれていて良かったと思う。 そうじゃ無かったら、何を口走っていたか分からないし… 「今お帰りですか??」 「そうだ。…鳳、」 「はい、何ですか??」 「もう少しちゃんと宍戸と話すんだな、あいつが五月蝿くてたまらねぇ。」 「え、あ…すみません。」 正直、どうしてその時謝ったのか分からないけど、跡部先輩が俺達の関係を気にしてくれているのが、嬉しかった。 やっぱり、この人は、不器用だけど…すごく優しい。 そういうところは、宍戸さんとよく似ていると思う。 きっと二人は、同じように不器用な面を持ち合わせているからこそ、反発するし、分かり合えたりもするんだ。 ──うらやましい、俺ももっと宍戸さんと深い関係になりたい… その時、素直にそう思った。 「じゃあな。」 「はい、さようなら…」 ふっと笑って挨拶をしてくる先輩に、慌てて返事を返すと、跡部先輩は俺の横を摺り抜けて、外へ出ていく。 それを見送ってから、静かにドアを閉めた。 ──パタン…と部室内に音が響く。 そして、中を軽く見渡すと、ソファーにもたれ掛かって座る宍戸さんが目に入った。 彼は、俺とは違う方向を見ているから、視線が交わらない。 まるで避けられているような気になって、ズキンと胸が痛んだ。 前 次 Text | Top |