月の下に二つの影 3 帰り、部室で待ってるから一緒に帰ろう、と宍戸さんに誘われ、俺達はその約束をしてから別れた。 部活があるせいで、いつも一緒に帰れないから、素直に嬉しかった俺は、午後の授業もぼんやりと過ごす。 何も頭に入ってこなかった。 宍戸さんからあんな風に誘ってくれたのは初めてだったから、浮かれてたんだ。 部活中も、そわそわしていたせいで、ミスを繰り返してしまったし。 周りからどうしたのか、と尋ねられる度に申し訳ない気持ちになった。 ただ、宍戸さんと帰れるのが嬉しいだけなのにな… ふぅ…と小さくため息を着いた時だった。 背中に突き刺さるような視線を感じる。 振り向かなくても、誰かなんて想像がついた、こんな風に睨んでくる奴は、アイツしかいない。 恐る恐る肩越しに後ろを振り返ると、予想通りの人物がこっちを見ていた。 (や、やっぱり日吉だ…) 普段より眉を吊り上げた同輩の姿に、冷や汗が流れる。 怒っているのは明らかで、余計にため息が漏れた。 何か面倒を押し付けられる前に、さっさと帰ろう… そう思った俺は、足早にコートを後にしようとする。 でも、もう遅かった… 突然、ぐいっと肩に手をかけられ、無理矢理向きを変えさせられる。 わっ、と小さく悲鳴を上げるのと同時に、日吉の冷ややかな目が俺を貫いた。 「鳳、何をそんなに浮足立っているのか知らないがな、お前のサーブミスのせいで、何人危ない目にあったと思ってるんだ。」 「うっ…それは、ごめん…」 「ふんっ、今日は罰として、ネットとボールを全部片付けてから帰れ。」 「え、そんな…!?」 「何か文句でもあるのか??」 「な、無いよ…」 その俺の返事に満足したのか、日吉はもう一度小さく鼻を鳴らしてから、部室へ向かっていった。 その後ろ姿を見ながら、俺は自分のふがいなさに盛大なため息を漏らす。 宍戸さんが待っているから、なんて言え無かった。 そんな理由をつけて、見逃して貰おうなんてせこいし、何より宍戸さんがそれを聞いたら、俺を怒ると思ったから。 罰ならば、ちゃんと受けなくてはならない。 例え、それでどんな不都合が生じたとしても。 それは、宍戸さんと一緒にダブルスをして学んだことだった。 だから、あの人なら分かってくれる、そう信じて俺はネットに向き直る。 自分の浮かれた気持ちが招いた種、最後まで面倒みようと思ったんだ。 前 次 Text | Top |