◇いただきもの | ナノ



月の下に二つの影 3

帰り、部室で待ってるから一緒に帰ろう、と宍戸さんに誘われ、俺達はその約束をしてから別れた。

部活があるせいで、いつも一緒に帰れないから、素直に嬉しかった俺は、午後の授業もぼんやりと過ごす。

何も頭に入ってこなかった。

宍戸さんからあんな風に誘ってくれたのは初めてだったから、浮かれてたんだ。

部活中も、そわそわしていたせいで、ミスを繰り返してしまったし。

周りからどうしたのか、と尋ねられる度に申し訳ない気持ちになった。

ただ、宍戸さんと帰れるのが嬉しいだけなのにな…

ふぅ…と小さくため息を着いた時だった。

背中に突き刺さるような視線を感じる。

振り向かなくても、誰かなんて想像がついた、こんな風に睨んでくる奴は、アイツしかいない。

恐る恐る肩越しに後ろを振り返ると、予想通りの人物がこっちを見ていた。


(や、やっぱり日吉だ…)


普段より眉を吊り上げた同輩の姿に、冷や汗が流れる。

怒っているのは明らかで、余計にため息が漏れた。

何か面倒を押し付けられる前に、さっさと帰ろう…

そう思った俺は、足早にコートを後にしようとする。



でも、もう遅かった…

突然、ぐいっと肩に手をかけられ、無理矢理向きを変えさせられる。

わっ、と小さく悲鳴を上げるのと同時に、日吉の冷ややかな目が俺を貫いた。


「鳳、何をそんなに浮足立っているのか知らないがな、お前のサーブミスのせいで、何人危ない目にあったと思ってるんだ。」

「うっ…それは、ごめん…」

「ふんっ、今日は罰として、ネットとボールを全部片付けてから帰れ。」

「え、そんな…!?」

「何か文句でもあるのか??」

「な、無いよ…」


その俺の返事に満足したのか、日吉はもう一度小さく鼻を鳴らしてから、部室へ向かっていった。

その後ろ姿を見ながら、俺は自分のふがいなさに盛大なため息を漏らす。

宍戸さんが待っているから、なんて言え無かった。

そんな理由をつけて、見逃して貰おうなんてせこいし、何より宍戸さんがそれを聞いたら、俺を怒ると思ったから。

罰ならば、ちゃんと受けなくてはならない。

例え、それでどんな不都合が生じたとしても。



それは、宍戸さんと一緒にダブルスをして学んだことだった。

だから、あの人なら分かってくれる、そう信じて俺はネットに向き直る。

自分の浮かれた気持ちが招いた種、最後まで面倒みようと思ったんだ。





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